1分で読めるショートショート集
1分で読めるショートショート
このショートショートは一分で読めるショートショートである。
あなたがこの文の文字について一文字あたり一秒で読んでさえくれれば。
3分間の戦い
僕は変身してから三分間戦える。
それ以上になるとエネルギーの限界が来て変身が解けてしまう。
だから僕にとって戦闘のおける時間の長さは重要だ。ダラダラしていてはあっという間にエネルギー切れを起こしてしまう。
相手をすぐに攻撃し、たたみかけ、勝利しなければならならない。
できれば最初の一分。この一分で一気に攻めたい。時間が過ぎれば過ぎるほどエネルギーを消耗して、攻撃力も落ちてしまう。
だから戦闘の時間稼ぎをするような敵を僕は好まないし、卑怯だと感じる。もちろんそれも作戦と言われればそれまでだが、理屈ではない憤りを僕は感じる。そしてついつい声を荒げてしまう。
「おい、変身バンクが長いぞ! もう一分経ってるじゃないか! 怪獣と対峙してから変身するんじゃなくて、前もって変身してから来いよ!」
7日間の命
僕は言った。
「地上に出て七日間しか生きられないのは、なんとも短く悲しくないかい?」
蝉は言った。
「生まれたときからそういう生き物だから、考えたこともなかったなぁ」
大きな木は言った。
「長生きしても百年くらい。なんとも短く悲しくならないかい?」
僕は言った。
「生まれたときからそういう生き物だから、考えたこともなかったなぁ」
40年の砂時計
人生に絶望した僕は、夜の海岸に一人で立っていた。
事業に失敗し、妻子を失い、全てを失った僕は今自ら命を絶とうとしている。
海は暗くなんとも静寂だ。若い頃には希望を持って見えた星空も、今ではなんだか違う世界のようだ。
僕が足を踏み出そうとしたそのとき、一人の少女が現れた。
「これは魔法の砂時計。あなたの人生の砂時計。もしもこの砂時計をひっくり返せば、あなたの人生は振り出しに戻るの」
「何を言って」僕がしゃべると遮るように少女は言った。
「よく考えて使ってね」
そう言って目の前から少女が消えた。
一体あの少女はなんだったのか。そして僕の掌に残った小さな砂時計。これが本当に少女が言う通り魔法の砂時計なのかはわからない。けれど、少なくとも、そう思うことで「いつでもやりなおせる」という気楽さが僕に芽生えた。僕は海に背を向けた。
そして僕は家路につき、朝を迎える。あのときの砂時計は今もテーブルにひっくり返さずに置いてある。もう少しだけ生きてみるか。今はそう思っている。
顔を洗い、歯を磨きながら何気なくテレビをつける。
砂時計の形で有名なオリオン座の上下が、ひっくり返っている様子が昨夜確認された。ニュースでそう報道されていた。
僕は絶望から立ち直れたが、宇宙はそうではなかったらしい。