僕は僕らしく生きる
僕は父親が好きではなかった。そしてロックが嫌いだった。
幼い頃、父親は僕によくロックを聴かせていた。父親が若い頃好きだったロック。いや、今でも父親はロックが好きだ。
バンドに憧れていた父親は、十代の頃ミュージシャンを志していた。ろくに勉強もせず、大学にも行かず、将来のことを真剣に考えもせず、バイトで食いつなぎながら音楽を作る日々。
僕から見ればそれは夢を追う青春というよりも、計画性のない浅はかさに思えた。そう思ったのは僕の性格なのか、それとも世代が異なるゆえの価値観の違いからなのか。
幼い頃、父親は僕によくギターを触らせた。自分が叶えられなかった夢を叶えてほしい。口には出さなかったが、そういう願望が透けて見えた。透けて見えたから、僕は冷めていた。
父親と同じような道は歩かない。僕には僕の道がある。
十代の頃、僕はそう思った。僕は僕の生き方を、自分で決めようと思った。
そして僕は医者を志した。自分の手で人を救う。という言い方はおこがましいかもしれないが、少なくとも自分の力と学びが人の役に立つ仕事。僕は必死に勉強した。
夢を追うことと、夢を追うことを言い訳に現実を見ないことは似ているようで違う。
僕はそれを証明したかった。僕と父親は違うと。
必死に勉強して医大に受かり、そして僕は医者になった。
僕は僕の生き方をしている。そう思えた。
「俺にもバンドをやって欲しかった?」
医者になって数年経った正月、帰省したときにふと父親に聞いた。
「いや、俺が苦労したからな」
「そうなんだ。よく音楽聴かされてたから、てっきり俺にも音楽やってほしいのかなって思ってたよ」
「夢を追うのもいいが、手堅い仕事があってこそだ。医者とか弁護士とかな。でもお前、仮に俺が勉強しろって言ってもどうせ聞かなかっただろ? どんな人生でも、人に言われず自分で選んだほうが満足するもんさ」
父親はそう言った。どうやら僕は、自分らしくより人に言われたかどうかが気になっていたらしい。