言いたい事も言えないこんな世の中じゃ窮屈さを感じることもあるだろう

オムニバス(エッセイ風小説)

言いたい事も言えないこんな世の中はどんな世の中だろう

 言いたい事も言えないこんな世の中では、
 ある人は毒を吐くかもしれないし、そんな世の中は毒そのものだと言うかもしれない。

 いずれにせよ、言いたい事を言えない世の中に窮屈さを感じるのは、いつの時代も変わらない。
 私達は、自分が正しいと思うことと社会のズレを感じている。

 けれど、何を言いたいのかは時代と共に変わっていく。

 今の時代は、強い人に言えないのではなく、弱い人に言いたい事が言えない気がする。
 そういう社会になった気がする。

 権力や力を持った人に恐怖して、弱い立場の人が言いたい事が言えないのではなく、弱い立場の人にその弱さを指摘することが罪となってしまった気がする。

 多様性の中で、多様性が認められない社会になった気がする。

 弱い人は守らなければならない。弱い人は尊重しなければならない。
 だから「ちょっとだけ強い人」が、「そんな余裕こっちにだってないよ」と言えなくなった。

 社会の中で弱い立場にある人。そういう人達が生きていけるのは、正しい社会の在り方だと思う。
 けれど、「私だって辛いんだ」と誰もが声を上げることで、みんなが弱さを語るようになった。弱くあることが、この社会で強さを持つようになった。誰もがこの社会で「自分だけが損をしている」被害者となった。

 ある人が電車の席を譲る。譲られた人は「ありがとう」と言う。
 ある人が電車の席に座る。譲られたい人が「お前は強いんだからどけ」と言う。
 ある人が「図々しい」と言う。ある人は「弱い人に対して図々しいとは不謹慎だ」と言う。

 電車だけの話じゃない。いや、電車の席すら比喩なのだ。
 誰もが、自分が座る席の権利を主張する。できるだけたくさん、自分が座れる席を確保したい。
 譲られるのを待っている弱い人は、自分の席を確保する弱い人に先を越される。

 私は弱いんだ。
 私は弱いんだ。

 みんなが声高らかに、自分の弱さを主張する。

 お前は弱いんだ。
 お前は弱いんだ。

 けれど誰もそんなふうには言ってはいけない。
 言いたい事も言えないこんな世の中だから。

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