懐かしき故郷の中での郷愁
実家に帰るのは何年ぶりだろう。
遠く離れた場所で働いて、時間が経つのがあっという間で、自分が生まれた場所に目を向ける機会がなかった。
思春期の頃は、田舎で不便でそんな地元がなんとなく好きじゃなかった。
口では言わなかったし頭の中でそこまで言語化していなかったけれど、私は逃げるように都会に出た。
都会での一人暮らしに、本当の自分がいるような気がしたから。
大人になって社会に出て、働いて。
社会の理不尽さとか会社のくだらなさを経験する。優秀な人ばかりじゃない会社で、優秀じゃない私は働いている。
怒鳴る上司は疎ましく、会社の慣習は煩わしい。残業に給料が出ることもなければ、それを改善する声が上がることもない。
そんな中で、私はふと実家に帰る。
ただただなんとなく、小学生の頃の通学路を散歩している。
整備された街路樹や花壇ではない。アスファルトの亀裂から咲いた野生の草花。
どこからともなく田んぼに来るサギ。都会じゃこんな大きさの鳥は動物園でしか見ないだろう。
花は美しく、鳥は私に命を感じさせ、空は晴れて気持ちがいい。
私の故郷も悪くはない。そう思う。
今では、チェーン店のコンビニを見慣れた今の私には、人が住んでいるのかも怪しい古い家屋も情緒があって美しく見える。
鳥が羽ばたく音がした。ふと後ろを見れば、すごく近くにサギがいる。やっぱり人に慣れているなぁ。そう思っているともう一羽、もう一羽と飛んでくる。さすがにこの距離にこれだけいるとちょっと怖いなぁ。私はそう思って、そのあとに違和感を持ち周囲を見渡す。
古びた家屋は錆びたり劣化しているものの、どことなくその劣化の仕方が整然として、うまく言えないけれど綺麗な壊れ方をしている。
ああそうなんだな。私は思う。これは夢なのか。まさかの夢オチか。
私はそう思って悲しくなる。悲しくなる自分がわかった。もうすぐこの夢は終わり、私は目を覚ます。目を覚ませば、一人暮らしアパートのベッドの上に私は居る。たぶん今日は火曜日。一週間はまだ始まったばかりで、私はいつものように会社に行くのだ。
「嫌だなぁ。これ夢なんだって。嫌だなぁ。あれ見て、あの建物。やっぱり不自然だよね。私の夢の中、想像の中だから、あんな綺麗なんだよね。鳥だって、やっぱりこんな近くには来ないよ。これって夢なんだ。だからもうすぐおしまいだね」
私は隣に居た母に言う。唐突に母が出てくる展開も、やっぱり夢らしいなぁと思う。