キッチン(台所)で歯磨きをすることについて

オムニバス(エッセイ風小説)

キッチンで歯磨きをすることについて

歯を磨く場所

 キッチンで歯を磨くことは非常識か否か。
 つまり、洗面所ではなくキッチンのシンクで歯を磨き、口をすすぐ行為は許容されるのか否か。

 これはおそらく、キッチンと洗面所が両方ある家に住んでいるかどうかで感覚が分かれるだろう。

キッチンでの歯磨きが気持ち悪い人

 キッチンでの歯磨きがNGな人の理由は「気持ち悪い」からではないだろうか。
 つまり、食べ物など「口に入れる物」を扱う場所で、歯磨き・口のすすぎという「口から物を出す行為」を行うことは気持ち悪いという感覚だ。

 そしてその「気持ち悪い」という感覚は「行儀が悪い」「マナーが悪い」という感覚につながっていく。
 歯磨きや整容は「洗面所」。調理は「キッチン」。
 それぞれの場所にはそれぞれの役割がある。それらを適切に使うことが「マナー」であり「文化的な生活」であるという感覚。

 確かに、他人が口をすすいだばかりのシンクに例えばいちごを落としたら、私はそれをさっとした水洗いだけで躊躇なく食べることができるだろうか。きっと抵抗があるだろう。

 それに、例えば同居者がいる場合、そしてその同居者が風邪をひいたとき、感染予防の観点からも普段から歯を磨く場所と調理をする場所は分けておいた方が理に適っている気はする。

キッチンで歯を磨ける人

 キッチンで歯を磨ける人の理由は端的に「別に気にならない」ではないだろうか。
 キッチンのシンクで歯を磨き口をすすぐことが習慣として当たり前で、そこに違和感がない。

 ただしキッチンで歯を磨ける人が一様に「不衛生でガサツでマナーがなっていない」とするのは違うと私は思う。
 キッチンで歯を磨ける人の中には、それが違和感にならない不可抗力の生活習慣があるかもしれないからだ。

 例えば、子供の頃にお母さんから仕上げ磨きをキッチンでしてもらった人。
 慌ただしい朝、お父さんが会社に行く前に洗面所で歯磨きをしている。けれど子供も保育園に行かないといけない。お母さんは時短のためにキッチンのシンクでさっと仕上げ磨きをしてあげる。(もちろん、お父さんとお母さんが逆のパターンもあるだろう)
 このようにして育てば、その人にとってキッチンでの歯磨きは「変な事」ではない。

 あるいは、洗面所がない家に住んでいる人もいるだろう。
 水回りはトイレ、風呂、キッチンだけで洗面所という独立した水回りがない。
 このような場合、必然として歯磨きはキッチンのシンクで済ませることになる。

 これに類して、私は大学生の頃に洗面所が風呂場に収まったアパートに住んでいた。
 このような間取りだと、風呂に入った直後は(床が濡れているので)洗面所がなんとも使いにくい。
 濡れた浴室にタオルを引いて、足でささっと拭きながら手は歯磨きをしていた記憶がある。

 いずれにせよ、キッチンで歯を磨く人の背景にはそれなりな不可抗力も考えられ、一様に「汚い」と切り捨てるのは残酷だと思う。

会社の給湯室で歯を磨くこと

 会社で歯磨きをする場合、トイレなどの洗面所で行うべきか給湯室のシンクでも許容されるのか。
 これは家での歯磨き以上に面倒な問題だ。
 なぜなら、家なら「個人の好きにすればいい」が、会社の場合はそれで解消するわけではない。

 シンクで歯磨きをするのがNGな人にとって、同僚がシンクで歯磨きをされていたら気持ち悪い。
 逆に歯磨きをする側も、相手がどう感じるか、この会社ではどこで歯磨きをするべきか考えてしまう。

 会社では、「トイレの洗面所で歯磨きは(混雑するから)してはいけない」という内々のルールがあることも少なくない。
 これはトイレの数が少ない会社や、客と従業員が同じトイレを使っている場合に多い。

 このような場合は給湯室での歯磨きを余儀なくされるわけだが、「キッチンで歯磨きNG派」には辛い環境であるだろう。
 そして、「キッチンで歯磨きNG派」がいるとわかっていながら、そこでしか歯磨きができない状況も辛い。
 私達にせめてできることは、その人たちがお茶やコーヒーを淹れる時間を極力さけて歯磨きを行うことだけだ。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました