マスクを外すと素顔にがっかりされそうで
マスクを外すと素顔にがっかりされそうで、マスクを外すことがなかなかできない。
初めは気軽につけたマスクだった。
多少息苦しいけど、感染症や花粉症の予防に便利だな。
そう思って付けたマスク。
けれどそんな生活が思ったよりも長く続いた。
マスク生活が当たり前になると、他の便利さにも気づいてしまう。
まずはやっぱりメイクが楽だ。というか、ほとんどメイクをしないで外に出れる。
笑ったときに見える歯並びとか、食事のあとの口臭とか、口周りの細かいことも気にしなくていい。
一日中マスクをつけた生活をして早数年。
すっかり口元を覆うことが当たり前になってしまった。
そして次第に、むしろマスクを外すことに違和感を持ってしまう。
他人に自分の口元を見られる恥ずかしさ。
自分の素顔を晒す恥ずかしさ。
相手は自分の素顔をどう思うのだろう。
自分の口元を見られている気がする。
そう思うと心が落ち着かない。
そわそわして、うまく口を開いて話すことができない。
私は気づいたときには、マスクを外せない精神状態になってしまった。
それは好ましくないことだと思いながらも、マスクを外せない。
周りも「マスクを外せ」と言わない・言えないのがまたこの問題の複雑なところだ。
素顔を見られることが怖い。
素顔にがっかりされることが怖い。
マスクを外してみようとマスクの紐に手をかけることもあるのだが、その先の一歩は踏み出せない。
マスクをつけて、予備のマスクを常に持ち歩いて、人前での飲食は避ける。そんな生活。
それは異常な事態になっていると自分でもわかるのだが、やめられない。マスクを外せない。
今日はマスクを外そう。
そう思うけれどそれができない。
私は鏡の前に立ち、「今日はマスクを外すぞ」と自分に言ってみるものの、マスクに手をかけることができない。
素顔にがっかりするのが嫌だ。ブサイクとか、老けていると思うのが嫌だ。
今の私の素顔は、どうなっているのだろう。
マスクをしていない自分の素顔を、私はもう何年も見ていない。