文字数から見た小説の分類
当然諸説あるが、例えば小説を文字数で分類すると以下のように考えられる。
- 長編小説
(12万文字以上)(300枚以上) - 中編小説
(4万~12万文字)(100~300枚) - 短編小説
(4000~4万文字)(10~100枚) - ショートショート
(800~4000文字)(2~10枚) - 掌編小説
(200~800文字)(0.5~2枚)
枚数は400字詰め原稿用紙で換算している。
ちなみにこれより短いものは詩、散文などと言われることもある。
小説の分類について
文字数の基準
上記の基準は、一般的な分類と照らし合わせながら「区切りがよく」かつ「途切れのない」文字数を考慮して分類している。
「区切りがよく」とは、文字通り文字数にしても原稿用紙にしても区切りがよいものを採用したということだ。
例えば短編の上限を32000文字とするところもあり、これも間違いではない。
しかし今回は区切りのよい4万文字という説を採用した。
途切れのないとは、前後の分類と途切れがない文字数を設定し基準に一貫性を持たせているということである。
つまり、例えば短編の上限を32000、中編の下限を4万としてしまうとその間の文字数の分類に困難さが生じる。そのようなことがないよう、数字に連続性を持たせている。
分類することの意義
小説を文字数(枚数)で分類することに意義はあるのか。
当然、その小説のおもしろさと文字数は関連しない。小説のおもしろさは書き手と読み手によるものだ。
そのような中で小説を文字数でわざわざ分類することに意義はあるのか。
個人的には、一定の意義はあると思っている。
その背景には小説において文字数は唯一と言える客観的な数値であるということが関係する。
文字数の分類に意義があると考える理由は主に2つある。
一つは読み手が所要時間を概算できる点だ。
その小説が長編なのか短編なのかで読み手が物語を読了する所要時間は変わる。
文字数による分類は、この所要時間の概算に役立つ。
もう一つは、小説の自由さを損なわず分類できる点だ。
その小説がおもしろいか否かは書き方と読み方次第であり文字数ではない。
しかし文字数が多ければ多いほど物語の細かな描写は可能である。このため極端に文字数が少ない小説と長い小説を単純に比較することはできない。
もちろん文字数が同じだからと言って何を比較できるのだと言われればそれまでだが、それでも文字数は一定の客観的な基準になりうる。
なぜならその小説がおもしろいかつまらないか、SFなのか恋愛なのか、感動なのかサスペンスなのか。これは読み手の感じ方にもよる。
しかし1万文字の小説は1万文字の小説であり、2万文字の小説ではない。これは事実であって人によって変わる類の基準ではない。
以下、文字数に着目した物語の分類についてそれぞれ触れていく。
それぞれの小説の分類
長編小説(novel)
先述の通り、12万文字以上、原稿用紙300枚以上。
12万文字はおよそ文庫本1冊の文字数に相当する。
このため長編小説は長めの文庫本1冊、あるいは「上・下」のように数冊で構成されることになる。
長編小説は他の区分と比べると当然ながら文字数が多い。
このため最も壮大な世界観と詳細な描写で物語を作ることが可能である。
また、長編小説は複数の物語が同時並行し、最終的にそれらが交わる結末をとることもある。
これにより壮大な伏線を張ることが可能だ。
複数の物語が並行してもそれぞれの描写をしっかりできるのは長編小説という長さの強みであると思う。これにより一つの物語が冗長になり過ぎないという効果も期待できる。
中編小説(novella)
4万~12万文字、原稿用紙100~300枚相当。
文庫本の1冊はおよそ8~12万文字ほどなので、中編小説でも長めのものであれば1つの物語で1冊の文庫本を構成することも可能だ。
しかし逆に少ない部類だと中編小説では本1冊分を成り立たせることは心許ない。
中編小説というジャンルは短編・長編と比べるとあまり耳にしないジャンルかもしれない。
短編集で有名な作家、長編小説で有名な作家と比べると、中編がその人の得意ジャンルとして肩書となる作家はいささか少ない気がする。
短編小説(short story)
4000~4万文字、原稿用紙10~100枚相当。
短編小説で文庫本を構成する場合は複数の物語を束ねる必要がある。
つまり短編集である。
作家ではない人、普段本を読まない人から見れば、原稿用紙100枚相当の文字数というのは決して「短い話」ではないかもしれない。
しかしながら登場人物や場面を豊かに描写していこうとすると、意外とかなりの部分を端折らないといけないのが短編小説という物語の長さである。
このため短編小説は中編・長編以上に描写の取捨選択やテンポの良い場面の切り替えが必要になるだろう。
また一つのテーマに沿って複数の物語を描いた短編集というものもある。
これらはそれぞれの物語が交わることもあれば独立していることもある。
いずれにせよこういった組み合わせの妙を楽しめるのも短編小説のおもしろさと言えるであろう。
ショートショート(short short story)
800~4000文字、原稿用紙2~10枚相当。
ショートショートと聞くとSFやミステリー、ユーモアといった作風をイメージする人が多いし実際にそのような作品も多い。
このように分類が作品のイメージにも影響を与えている点は他の区分と異なるショートショートの特徴と言える。
これは先述の短編小説と同様に、文字数の短さが影響しているのかもしれない。
つまり物語全体の文字数が少ないゆえに、細かな描写を端折り、代わりにわかりやすいオチや場面展開が必要になりがちということである。
ただしショートショートの定義も諸説あるので、「ショートショートはユーモアやミステリー要素がないとダメ」と決めつける必要はないと思う。
ショートショートであっても自由に書いていいだろう。
叙述的な文章がただ続く物語であっても、それをショートショートでないとは言えない。
掌編小説(very short story)
200~800文字、原稿用紙0.5~2枚相当。
このくらいの長さになるとものによっては散文詩的な装いも帯びてくだろう。
掌編小説も定義は様々だが、掌編小説も1つの物語であり、何かの抜粋や要約でないことは少なくとも言えるだろう。
近年はTwitterなどのSNSの影響もあり、短く文章をまとめる文化がより強まっている気がする。
ごく短い文章で、まとまりとオチのある物語集を本屋でしばしば目にする。
心を打つような長文が文学であると同時に、手軽に読める娯楽としての物語もそれはそれで文学だと思う。
人にとってやはり文字は多かれ少なかれ必要なものなのだ。
散文(prose)、散文詩
掌編小説で触れたので、散文や詩についても取り上げておきたい。
これ以降は文字数の定義はより曖昧になってくる。
散文は文字通りとりとめなく書かれた文章であり、一定の物語を成したり言葉のリズムを配慮することを念頭に置いているわけではない。
もちろんとりとめがないからといって何も考えず適当に考えた文章とは限らない。
散文詩はこういった散文の体を成す詩である。
個人的に散文詩のこういった「とりとめのなさ」は魅力の一つだと思う。
とりとめなく書かれた文字の中にある、なんともいえない自然体な思想は味がある。
詩(poetry)・定型詩、自由詩
詩についても文字数の定義はないが、例えば五七五というように短い文章を想像する人が多いだろう。
また、詩は言葉に一定のリズムを持たせて語感にも美しさを意識していることが最大の特徴と言える。
ただしこういった言葉のリズム、音韻の規則性を持たせないと詩ではないのかというとそうではない。
音韻に規則性があるものを定型詩、そうでないものは自由詩と呼ばれる。
また、詩はその短い文章から生き方や思想といった内面を抽象的に描くことも多い気がする。
加えて社会に対する批判や皮肉といった抗議の力を感じる機会もある。
また詩はそれが額に飾られたり、衣服や小物に印刷されたりと、それ自体が一つのブランド、あるいは記号となることも多い気がする。
言葉という本来は読まなければ意味が分からない記号を、ある生き方や思想の象徴として使えることも詩の特徴の一つであろう。
おわりに
以上のように小説の長さ・区分について述べてきた。
もちろんこれ以外の分類・考えはあるだろうから、あくまで数ある分類方法の一つと考えてもらいたい。
ちなみにこのページの文字数は全体で4000文字弱である。
つまり物語で言えばショートショートあるいは短めの短編小説に相当する。
このくらいの長さの文章を短いと感じるか長いと感じるかは人それぞれであろう。
今回のように何かの物事を端的に説明する場合は充分であるように感じる。
一方でこれが人の心の描写も含む物語であれば、少し手狭な感覚を覚えるかもしれない。