【1分ショートショート】現代の矛盾と皮肉の中で

オムニバス(ショートショート)

現代の矛盾と皮肉の中で

インターネットの中で

 ネットを開けば私達は、たくさんの情報と一緒にたくさんの広告を目にしていく。
 最初に出てくる広告、最後に出てくる広告。
 上に出る広告、下に出る広告、横に出る広告。
 何かを買わせる広告、何かを契約させる広告。
 そんな広告にうんざりした私達の目に、朗報とばかりにポップアップが飛び込んでくる。
 「○○アプリは広告なし!」そんな広告画面が目に飛び込む。
 「広告なし」という広告がなくなってくれれば、このページは広告なしで見ることができるのだけれど。


多様性の中で

 その映画の制作にあたって、俳優は人種の多様性を尊重し白人・黒人・黄色人種を均等に配役した。
 多様性を尊重して、物語の中では異性愛だけでなく同性愛も描くことにした。
 紛争地域に配慮して戦争の描写は避け、生まれながらに身分が固定されている差別的な世界観も排除した。宗教の概念も排除した。
 環境に配慮しプラスチックストローが本編に登場しないようにしたし、作中に登場する自動車は全て電気自動車にした。
 映画製作に関わるスタッフには一定数障害者を採用し、単身世帯のスタッフも子育て世代のスタッフもいる。現場で働くこともできれば、リモートで制作に携われる環境も準備した。
 不快に思う人もいるかもしれないから、物語の中で爆発シーンや戦闘シーンは排除し、敏感な人のために登場人物が叫んだり作中で大きな音が出るようなシーンはカットした。
 他にも様々な配慮がなされた。まさに多様性を尊重した映画になるはずだった。しかし要望が多すぎてその映画製作は頓挫した。
 映画監督が作品を完成させることができず残念がっているその頃、世間では二頭身のキャラクター(それは人間でも動物でもない空想の何か)が活躍する物語が流行した。彼ら(彼女ら?)は社会の不満について語り差別について語り、戦争について語り残酷な世界について語っていた。


現代の皮肉の中で

 今の世の中は、だんだんと悪くなっている気がする。
 すでに悪いこの状況が、さらに悪くなっている気がする。
 必死に働いた人間の富を、一部の偉そうな人間が搾取する。
 平凡な人々の暮らしは良くならず、年寄りが権力を持ち、若者は変わらない古い価値観にうんざりする。
 他の時代と比べれば、幾分マシな気もする。けれどこれだけ人類は時を重ねたのだから、もう少し平和で理不尽さがない世界になってほしいとも思う。江戸の空は、今日もこんなに青いのに。

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