【ショートショート】子供の成長とお手伝い

オムニバス(ショートショート)

子供の成長に喜びを感じる

 「荷物持ってあげるよ。重いでしょ?」
 娘はそう言った。娘がそんなことを言うのは初めてで、私は少し驚いて、そのあと娘の成長を感じ嬉しくなった。
 仕事帰り、保育園に子供のお迎えに行って買い物をして帰る。
 いつもの日常だ。けれどその日は少し荷物が多かった。
 片手には食料品と仕事で使うバッグ。もう片方の手にはトイレットペーパーとティッシュを持っている。安かったとはいえ、トイレットペーパーとティッシュの両方を持つとさすがにかさばる。重くはないのだけれど、歩きにくいし、家に入るときに鍵を開けるのが面倒そうだ。
 そんな私を見かねてか、お手伝いをしたい年頃なのか、娘は私に荷物を持ってあげると言ってくれた。
 仕事の疲れもあって、娘の優しが身に染みた。娘はもう、人の気持ちを察して行動するのだなと思った。娘の成長を感じると共に、この子も大きくなっていくんだなと思った。
 親が子供を育てる期間は、思ったよりも短く、あっという間なのかもしれない。そういう切ない気持ちにもなった。
 「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」私は言った。
 「うん」娘は嬉しそう言った。
 私に抱っこされている娘は、誇らしそうにティッシュを持っている。

娘のお手伝い

 私に抱っこされた娘がティッシュを持ったところで、私の身体にかかる重さは変わらないわけだが、それでも我が子の配慮が嬉しいものだ。
 家の玄関に着くと、両手がふさがった私を見て今度は「鍵を開けてあげる」と娘は言った。
 私のバッグの中を探り鍵を出した娘は、鍵を鍵穴にさそうとする。
 抱っこされた娘の高さでは鍵穴に距離があるので、私は中腰でかがむことになる。
 普段鍵を開け慣れていない娘は、鍵を開けるのに時間を要する。私はその間、荷物を持ち娘を抱いた状態で中腰の姿勢を維持し続ける。娘の鍵を開ける時間が長く感じる。
 ガチャガチャガチャと鍵を扱うものの、うまく鍵が鍵穴にささらない。やっと入ったかと思っても、鍵と鍵穴が噛み合っていないのかうまく鍵が回らない。
 「一緒にしよっか」
 私はそう言った。ここで私だけで代わりにやると、娘は挫折し不機嫌になるだろう。
 私は震える腰と手で娘を手伝う。娘の手に私の手を添え、鍵を回す。そしてやっと玄関が開く。
 こうして娘のお手伝いと、娘のお手伝いのお手伝いがひと段落する。

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