【ショートショート】死亡フラグの例を挙げる

オムニバス(ショートショート)

死亡フラグとは

 死亡フラグとは、物語において登場人物の死亡を際立たせるための事前の描写である。

 「この戦いが終わったら俺、彼女にプロポーズするんだ」というセリフは死亡フラグの典型的な例である。
 ベタな物語であれば、彼はこの戦いで死亡し彼女にプロポーズすることはないだろう。戦いを終え彼女にプロポーズをするつもりであった彼の希望を描写することで、死亡シーンをより印象付ける効果を与えている。

 このように、死亡フラグとは事前に「死ぬはずがない」「死ぬわけにはいかない」「死ぬ素振りがない」描写をすることで登場人物の死亡・退場を印象付ける。

 このため後の展開を暗示する「伏線」とは微妙に異なるだろう。
 伏線が後の展開につながる筋の通った描写であるのに対し、死亡フラグに因果関係は必ずしもなく、むしろ死と生という対極の描写を行う。

 死亡フラグは必ずしも登場人物の死亡を指すだけではない。
 物語りの本筋からのフェードアウトや、重傷による戦線離脱など出番がなくなることを指す場合もある。またスポーツを題材にした作品などでは試合に負ける「負けフラグ」も広義の死亡フラグと言えるだろう。

 いずれにせよ、物語の構成に視聴者が感心する「伏線」と比べると、「死亡フラグ」はベタで次の展開が逆に予想できてしまうネタとして見られることが多い。
 このためギャグマンガなどユーモアを前提とした作品ではわざと死亡フラグを立てることもある。

 さて、死亡フラグについての文章を書くことはそろそろ終わりにしようと思う。
 この文章を書ききったら、僕は彼女にプロポーズしようと思っているからだ。
 僕はこの文章を書ききって、そのあとに先ほど物音がした別室の様子を見に行ってこようと思うから、君達は先に行ってくれ。必ず後で追いつく。暗い部屋をさっとのぞくくらい、僕一人で充分だ。

 今日僕はこのあと駅で彼女と待ち合わせをしている。駅の途中の花屋には花束も注文している。僕がプロポーズをするときは、この花屋で花束を買おうとずっと思っていた花屋だ。
 だから君達とは合流してもその花屋でお別れだ。明日、彼女へのプロポーズの結果はもちろん君達に報告するよ。君達と知り合って間もないが、僕にとって君達は大切な友達だ。君達と比べると僕はいくぶん地味なキャラだと我ながら思うけれど、それでも君達と仲良くなれた。
 え?どうしてプロポーズを決意したかって?
 実は僕は幼い頃から持病があって、入退院を繰り返していたんだ。けれど先日治療法が見つかってね。来週手術をして完治する見通しが立ったんだ。これでやっと彼女を幸せにできるよ。

 それにしても今日は外でカラスの声がうるさいな。黒猫も家の前を何度も通っている。
 ん?さっきもだったけれど部屋から物音がするな。ちょっと見てくるよ。なあに、心配することはない。仮に不審者でも、僕なら一捻りさ。実は最近筋トレを始めてね。自信があるんだ。君達の出る幕はないよ。
 それじゃあ、行ってくる。
 

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