【ショートショート】浮気の定義 異性と二人である僕は浮気だろうか

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浮気の定義

 浮気の定義は人によってそれぞれだ。
 異性と一緒に歩いただけで浮気だと言う人もいれば、異性と関係を持っても心が自分にあればそれは浮気ではないと言う人もいる。
 価値観は人それぞれだから、当人同士でそのあたりの定義はすり合わせればいい。

 しかし一般的には、パートナー以外の人と性的な関係を持ってしまえばそれは浮気と思う人が多いのではないだろうか。
 そして、そういう関係に至ってはなくても、二人っきりで会うのはどうか、と思うのが一般的な感覚ではないだろうか。

 そういう意味では、僕の状況は微妙だ。
 僕は今、高校時代の友人である橋本と二人で会っている。
 高校の頃から気が合った僕と橋本は、互いに気楽に話せる異性の友人だった。
 高校を卒業し違う大学に入り違う職場に就職した。
 けれど社会人になって数年経った後、僕達は再び会うこととなった。見知った仲だから互いに話しやすかった。僕達が今の関係性になって、もうすぐ二か月が経つ。
 今日二人が会っている場所も、家や会社から少し離れた場所にある。
 僕には妻がいて、高橋は独身だった。妻には今日は仕事で遅くなると伝えている。
 残業が多いのはいつものことだから、妻も疑ってはいない。
 「先週の金曜日も仕事で遅かったの?」橋本は僕に聞いた。
 「そう言ってる」僕は言った。
 「でもその日仕事は定時で終わってたんでしょ?」橋本は聞いた。
 妻の浮気を知ったのは二か月前で、僕は今後のことを弁護士の橋本に相談していた。友人という関係性が、依頼人と請負人という関係になるとは僕も思わなかった。

エピローグ

 正直、浮気の相談を友人に依頼するのは気が引けるというか嫌だった。
 けれど家や会社から近すぎず遠すぎない距離で、良さそうな弁護士事務所はここだった。
 それに橋本が務めていることも直前まで知らなかった。橋本も知り合いを担当することはあまり気が進まなかったようだが、事務所の中で手が空いているのが自分しかいなかったのだという。

 「高校の頃は友達との恋愛話も楽しいけれど、大人になってするもんじゃないわね」橋本はため息交じりに言った。
 「ため息が出るのは僕の方だよ」

 

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