伏線だらけの異世界転生(3) ミナトの出会い

オムニバス(ショートショート)

第2話「フクセンの魔法」

第3話「ミナトの出会い」

 言葉より先に手が出る人間がいる。せっかく言葉が通じるのだから、話せばいいのにと、私は時々思う。
「お前らふざけやがって」
 テーブルを壊し損ねた大男の苛立ちとか羞恥心とか憤りの矛先は、私達に向くことになった。こちらに向かって来る大男。余計なことを言ったなと私は後悔した。どうして私はそんなことを言ってしまったんだろう。
「おい、まだ俺と話してたんじゃないのか?」
 大男の後ろから声がした。大男と口論になっていた青年。改めて見れば、私と歳が近そうだ。
 呼び止められた大男が振り向くと同時に、青年は左の拳を大男に入れる。勢いよく大男が吹き飛ぶ。ああ、そっか。この青年も魔法使いなんだ。私はそう思った。
「魔法が使えねぇなんて誰が言ったよ。使えねぇのは袱閃ばれたお前の方だろう」
 そう言われた大男は、必死に立ち上がり逃げて行った。

「ありがとう。助かったよ」ツキは言った。
嘘つけ。自分でどうにかできただろ
 青年は親しげに話した。あれ、二人は知り合いなのかな。
「店で喧嘩しないでって言ったでしょ」少女は青年に言った。
「悪い。ただ絡んできたのは向こうからなんだよ」
 青年は少女とも親しげに話す。あれ、二人も知り合い?
「ねぇ」私はツキに話しかける。
「ああ、ごめん」ツキは言う。「二人とも、この子は異世界の新人さん」
ツキが連れてるってことはやっぱりそうか。俺はミナト。よろしくな。名前は?」ミナトという青年は私に言った。
「あ、えっと」私は言葉に詰まる。
「ああ、この子、元の世界の記憶があんまりないらしいんだ」ツキがフォローしてくれる。
「マジか。そういうことってあるんだな。でもまぁ、見た目は俺と歳近そうだな。それにアジア人っぽいし。同じ日本人かもな」
 初対面なのに人の見た目をずけずけと言葉にするミナト。でも、記憶がない私にはそれがありがたい。
「ああ、でも、言葉が通じるからきっと私日本人なんじゃないかな」私は言った。
「いやぁ、言葉が通じるのは関係ないだろ」ミナトは言った。
「え?」
「ああ、まだ言ってなかったね。この世界の来るとね、みんな言語が自動調整されるんだよ」ツキは言う。「だから母国語がなんであろうと、とりあえずコミュニケーションは取れるんだ。君が話す言葉は僕達にわかるように、僕達が話す言葉は君にわかるような言葉になって耳に届く。」
「マジか」私は言った。
 せっかく言葉が通じるのだから、やっぱり話すのは大事だ。つくづく私は思った。

第4話「ヒカリの中で」

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