第4話「ヒカリの中で」
小雨は続いているが雲の隙間から光も差している。騒動が一段落し、私達四人はテーブルに座っている。
「とりあえずこれでパーティが揃ったわけだ」ミナトは言った。
異世界から来たミナト、その転生者を導くツキ、彼らを集める少女、そして私。
ツキ達いわく、それぞれ役割があるらしい。だからツキは宿屋に、少女は酒場に居た。じゃあ、私の役割はなんなのだろう。
「そういえば、名前なんて言うのかな」私は少女に聞く。
「フウ」
少女は言った。フウ。つまり、フウちゃん。
「とりあえず今日はもう夕方だから、一旦宿屋に戻ろうか。旅の準備はまた後日にしよう。道具を見るのも時間がかかるだろうしね。」
四人で食事をしたあと、店を出ながらツキは言った。旅って、どこに行くのだろう。やっぱり冒険なのかな。
ぼんやりそんなことを考えていると、急にツキが歩を止める。ミナトとフウちゃんも身構えている。目の前には、黒い水たまり?
「来る」フウちゃんが言った。
「え?」
「これが魔物だよ」ツキは私に言った。
黒い水たまりから出てきた、黒いスライムのような物体。私を包み込めるくらい大きさがある。想像力を欠いたような、ディテールのないただの真っ黒の表面。淡く目のようなものが光っているだけで、手も足もない。
その黒い物体はすごいスピードで触手のようなものを私達に伸ばしてきた。フウちゃんはそれを素早く避け、ツキは私をかばいながら素早く動く。ミナトは一気に黒い物体と間合いを詰める。左腕が淡く光ったかと思うと、強い突きを放った。けれど黒い物体は見た目通り柔らかく、ミナトの突きの衝撃に合わせて形を変えただけだった。
「これが魔物。クラヤミと呼ばれている。ああやって黒い水たまりから生まれるんだ」ツキは言った。
私は魔物を見る。クラヤミ。黒いからクラヤミなのかな。でもよく見ると、黒い身体の隅に、もっと濃い黒の球体のような物が見える。大きさは、サッカーボールくらいかな。
「なるほど、そっちね」
私の視線を察したように、ミナトはそう言った。次の瞬間、ミナトはその球体に向かって突きを放つ。黒い球体は割れ、クラヤミは破裂した。これって、倒せたってことかな。
得体の知れない物を見る戸惑い。死ぬかもしれないという恐怖。そこから助けてくれる人達がいる安堵。小雨で濡れた身体。飛び散る黒い液体。雲の隙間から差し込む光。
「やっぱり君は物事をよく見ているね」ツキは言った。「クラヤミの袱閃はあの核なんだ。核を破壊されると消滅する。でもあの見た目だから核をぱっと見つけるのは難しいんだ。君が視線を向けたおかげで、ミナトも気づけたみたいだね」
「私…… 」
「ごめんね。いきなり怖い思いをさせてしまったね」
「私、名前思い出した。私の名前、たぶんヒカリだと思う」
私は言った。まだまだ私の記憶は晴れてはいないが、とりあえず一筋の光は差したようだ。