【ショートショート】柿を送ってくれる実家

オムニバス(ショートショート)

柿を送ってくれる実家

 私がまだ保育園に通っていた頃、秋になると母の実家から柿がよく送られてきた。

 母の実家は昔ながらの一軒家で、庭には祖父の趣味で大小様々な植物が植えられていた。
 その中でも大きかった柿の木。遠方だったためあまり帰省の記憶がない私だが、一度だけ実家でその柿を食べたことがある。そのときの私はとても美味しそうに柿を食べていたらしく、以来祖父は季節になると私達の家に柿を送ってくれるようになった。
 あなたは初孫だったし、おじいちゃんも嬉しかったのよ。
 母いわく、そういうことらしい。

 だから私は秋になると、祖父が送ってくる柿を思い出す。
 祖父は私が成人になる前に他界した。だから今は柿が送られてくることもないし、実家に帰る機会もない。
 それでも私は秋なり、例えばスーパーで柿を見ると、祖父が送ってくれていた柿と、祖父との日々を思い出す。
 家族で飛行機に乗って実家に帰省することは(特に盆や正月は)お金も労力もかかることだとこの歳になって改めて思い知らされる。
 空港からさらにバスと電車を乗り継いで着く祖父の実家。家の中は昔ながらの間取りで、部屋数はあるが一室あたりは狭い。風呂場の浴槽は深く狭く、トイレは洋式だがどこか前時代的な雰囲気を感じる。
 庭にある様々な植物。鉢に入っているものもあれば、直接植えられているものもある。鮮やかな花を咲かせているものもあるが、どちらかというと葉が多く、庭全体の印象としては深い緑の空間だった。

 そこで祖父は柿を育て、遠く離れた場所に住む娘と孫へ、季節になったら柿を箱に詰めて送る。
 幼い頃の私はそう思っていて、それが誤った認識だと気づいたのは思春期を過ぎた頃だった。
 ある日立ち寄ったショッピングモール。そこにある箱詰めの柿は、祖父が送ってくれた物と全く同じだった。
 なんということはない。祖父は、地物の名産である柿を買って、私達に送ってくれていた。庭の柿の木一本で、あんなにたくさんの(しかも形が揃った)柿を送れるわけがないのだ。
 祖父は別に柿を買って送っていることを隠してないし、母親も祖父が柿を買って送っていることを知っていた。というか、大人なら見ればわかる。ただただ、幼い私が勘違いしていたのだ。

 大人が言及するほどでもない、小さな子供の小さな勘違い。
 祖父は私が幼い頃、柿を地元のスーパーで買って送ってくれていた。
 平常なら気前がいい祖父だが、気分の浮き沈みが激しくて、母が幼い頃は時折暴力を振るわれていたらしい。ただの偶然か逃げるためか、家から遠く離れた都会に就職した母。それでも私という娘ができ、親となると、自分の親との関係を修復したいと何度か飛行機に乗り帰省する。しかし祖父は変わらない。人間はそう簡単に変わるものではない。
 薄い関係のまま時間が過ぎ、独居老人であった祖父はある日ひっそりとこの世を去る。
 祖父が他界する数年前から祖父は生活保護を受給していたらしい。母はそのことは最初から知っていたらしいが、私がそれを知ったのは母と大人の事情を対等に話せるいわゆる「いい歳」になってからだった。

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