シンデレラのガラスの靴は
今日はお城の舞踏会。
しかし彼女は二人の義理の姉から家の掃除を言いつけられていた。
父が再婚した女性とその連れ子の姉二人は、彼女に対して非常に冷たかった。
日々いじめられ、服も食事も貧相な物しか与えられない。
今日だって、本当はお城の舞踏会に行きたかった。しかし彼女には舞踏会に行くための靴もドレスもなかった。
そんな自分の運命に涙を流したそのとき、どこからともなく魔法使いの老婆が現れた。
「あなたも舞踏会へ行きたいかい?」魔法使いは優しく彼女に言った。
彼女が頷くと、魔法使いはその場にあったかぼちゃに魔法をかけ、あっという間に馬車に変えてしまった。そして彼女の貧相な服はたちまち華やかなドレスとなった。
「馬車とドレスは元々あった物を魔法で変えただけだけれど、これは私からのプレゼントよ」
そう言って魔法使いは杖を振り、ガラスの靴を出した。
「いいかい、このまま姉達の言いなりになったって、あなたはちっとも報われない。王子が婚約相手を探す今夜の舞踏会がチャンスよ。なんとか王子の目に留まるのよ」魔法使いは言った。
「そんな、私じゃ無理よ」彼女は戸惑いながら言った。
「そんなことないよ。たぶん王子はあなたみたいな容姿の女性が好み。男は単純なものさ。あとはきっかけをうまく作ればいいのよ」
「きっかけ?」
「ドレスも馬車も、十二時には魔法が解けるようにしてあるの。あなたは舞踏会の途中で帰ってきなさい。男ってのはすぐ手に入る女より、ちょっと追いかけないといけない女に夢中になるものだから」
「そういうものなのかしら」彼女はまだ不安そうだった。
「そしてここがポイントよ。帰ってくるとき、必ずそのガラスの靴を忘れて帰りなさい。その靴だけは十二時を過ぎても魔法が解けない。あなたと王子がもう一度会うための大義名分を作るのよ」
彼女はこうして魔法使いから知識も授かった。
舞踏会では案の定王子は彼女に好意を示した。夢のような時間に彼女は心を奪われ、いつまでもここにいたいと思った。しかし十二時の鐘が鳴る。どんなにここに居たくても、魔法が解けるところを見られるわけにはいけない。彼女は半ば強制的に城を出た。彼女は魔法使いの言いつけを守り、半信半疑ながらガラスの靴を一足落とした。
案の定、王子は後日ガラスの靴の持ち主を探すため街に来た。
王子に選ばれたい一心で高揚する姉達。その様子を離れて見ている彼女。そのとき魔法使いの小さい声がした。
「いいかい、王子が来ても自分から靴を履きたいなんて言わなくてていいからね。どうせ王子が来れば全員ガラスの靴を試すことになる。自分が自分がと出しゃばるより、一歩引いたくらいが印象がいいからね」
そして王子がついに彼女の家に来た。
もちろん姉達の足はガラスの靴とサイズが合わなかった。
彼女も声をかけられ、彼女はガラスの靴を履いてみる。もちろんぴったりだ。
王子は感激し、その場で彼女はプロポーズをされた。
こうして彼女は王子と共に城に住むこととなり、幸せになった。
「よかったよかった」そう呟きながら魔法使いが道を歩いていると、路肩から一人の男が現れた。
「ありがとうございました。これで王子は隣国の姫と結婚せず、国の勢力が拡大せずに済みます」
彼は隣の隣の国の王の召使。小国であるこの国の王は、隣国達が手を結ぶことを危惧していた。しかし魔法使いの働きにより、王子は王族でない貧しい女性と結婚した。
「しかし、魔法で王子の心を操ったほうが早かったのでは?」召使は聞いた。
「人の心は魔法じゃうまく操れないものよ」魔法使いは言った。
「そういうものなのですか」
「ええ。なんせ操ってもすぐにコロコロ移り変わってしまうから」