ハムスターが亡くなった悲しみ

オムニバス(エッセイ風小説)

ハムスターが亡くなった悲しみ

ハムスターの最期

 人の死がそうであるように、ハムスターの死も様々だ。

 私はハムスターの死に多く直面したわけではない。だから一般的にハムスターの最期がどのような状態が多いのかよく知らない。
 私はまだ、命はこういうものだと端的に言えるほど、命の終わりには出会っていないのだと思う。
 しかし想像するに、例えば巣箱の中で眠るように亡くなっていて、気づいたときにはハムスターはすでに亡くなっていたというパターンが多いのではないだろうか。

 そういう意味では、我が家のハムスターはもう少し運命的に、もう少し情緒的に亡くなった。我が家のハムスターは家族に看取られながら、私達の手の中で穏やかに息を引き取った。
 それは偶然だったのか、それとも弱々しいハムスターを私達が気に掛けていたゆえの必然だったのか、私にはわからない。

ハムスター最後の朝

 数日前から明らかに弱っていた我が家のハムスターは、ある日の早朝に亡くなった。

 その日、ハムスターはケージの隅にいた。動きは少なく、呼吸は粗い。目は弱々しく閉じかけていた。ハムスターが好きだったフードや野菜を口に近づけても食べようとしない。
 以前は触ると俊敏に動いていたハムスター。しかし今は、撫でてみても反応がない。

 私はまだ寝ていた夫や娘を呼ぶ。ハムスターの様子がおかしいと。
 朝に弱くなかなか起きない夫や娘がすぐにリビングに来たのは、昨日までのハムスターの様子を見ていたからかもしれない。家族はみんな、心のどこかで、この子の最期を意識していた。
 私達は、ハムスターを見守っている。

ハムスターが亡くなる瞬間

 肩でしていた粗い息が止んだ。私はハムスターが亡くなるのだと察した。心臓の鼓動は、もう微かにしか感じない。
 私はハムスターをケージの中から出し、掌に乗せる。
「もうすぐ天国に行っちゃうかもしれない。最後に抱っこしてあげよう」私は言った。
 娘と夫は交代でハムスターを掌に乗せる。娘の目には涙が溜まっている。
 再び私の掌に戻ってきたハムスターは、もう身体が動いていない。

 がんばったね。家族になってくれてありがとう。
 私は心の中でそう言った。

「おやすみ」
 私は静かにそう言って、ハムスターの頭を撫でてあげた。するとハムスターは静かに目を閉じた。そして、ハムスターの心臓が動いていないことに気づいた。
 「天国に行っちゃったみたい」私は行った。
 娘はそれを聞いて、「ほんとに?」と何回か聞いて、泣いた。夫も涙目になっている。
 ハムスターは冷たい。あんなに忙しなく動いていた心臓。抱っこをすれば小さい命の温もりを感じた。けれど、今のハムスターの身体はだんだんと冷たく、だんだんと固くなっているのがわかった。

 ああ、死んじゃったんだな。もう、会えないんだな。

 そう思った途端に、私は涙が出た。ハムスターを抱っこしていたから、手で涙を拭うことができず、涙はポタポタと落ちていく。涙を拭かずにただ流れていくなんて、いつ以来だろう。子供の頃以来かもしれない。

 家族が涙を流している中、ハムスターの陰部からまるで小さな泡のように尿が出てきた。
「お漏らししちゃったみたい」
 そう言って、私達は泣きながら力なく笑った。
 命が終わり身体の力が抜け、ハムスターは身体に残っていた尿が出たのだろう。尿は色が濃く、たぶん水を飲む気力もなかったのだろう。尿と一緒に便が出てこないのは、偶然なのか、やはり食事をあまり食べていなかったからなのか。
 私はハムスターの尿をティッシュで拭いてあげる。もうハムスターはまったく動かない。目を開けることもない。タオルの上に私はそっと降ろしてあげる。身体が完全に固まってしまわないうちに、少しだけ態勢を整えてあげた。そうすると、ハムスターはまるで眠っているように見えた。

 私達の家族であったハムスターは、今日の朝、亡くなった。

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