ハムスターの仏壇

オムニバス(エッセイ風小説)

ハムスターの仏壇

自宅へ帰る私達

 飼っていたハムスターが亡くなり、ペット斎場で火葬を行った私達は、遺骨を一旦自宅に持ち帰ることにした。小さな骨壺に入った、細く脆い遺骨。
 斎場には納骨堂もあったのだが、この子と離れることが、やっぱり寂しかった。生前とは違う姿になっても、やっぱりこの子はこの子。我が家で一緒に時間を過ごした、愛おしいハムスターだった。

 もちろん、一生涯、この骨壺を家の片隅に置いておくわけにもいかないだろう。
 いつか、この子を埋葬するときがくる。それが四十九日なのか一周忌なのか、それよりももっと時間がかかるのか。私の心は、私達家族の心はまだわからない。

ハムスターの仏壇を手作りする

 ペット斎場から家に戻ってきた私は、ハムスターの仏壇を手作りすることなる。

 斎場やネット上にハムスターの仏壇は売ってはいるが、それを購入するには至らなかった。
 私はハムスターに愛着はあったが、仏壇にそこまで思い入れはなかったのだと思う。
 結局のところ、私はそこまで信心深いわけではなく、ただ二年ほど一緒に過ごした小さな命を、慈しむ場所が欲しかったのだ。

 骨壺を置くスペースは特に悩まず決まった。元々ハムスターのケージが置いてあったカラーボックス。リビングの片隅で、位置としても悪くない。
 私はカラーボックスの上に骨壺を置いてみる。想像はしていたが、なんとも味気ない。クローゼットから何か良い物はないかと探っていると、ちょうど良さそうな桐の箱を見つけた。実家の両親がお中元でもらったハムの詰め合わせ。子供達が食べるだろうという理由で丸々我が家が引き取った。何かに使えるかもと取っておいた桐の箱は、カラーボックスの上部にぴったりとフィットした。

 カラーボックスの上に桐の箱を置く。そして上に白い布を掛けると、なんともそれらしくなった。
 中心にハムスターの写真が入った写真立てを置く。写真立ての右後ろに骨壺。左後ろに手のひらサイズの花瓶。花瓶の中には百円ショップで買った造花を入れる。

 ずいぶんとそれらしくなったな。

 我ながらそう思った。お線香は迷ったが、器や砂などそろえる物が多くなりそうでやめた。お線香をあげなくても、この子の前で手を合わせるだけで、私には充分に思えた。

ハムスターの仏壇がある日々

 思ったよりも、ハムスターの仏壇は私の心を穏やかにしてくれた。
 朝起きて、ハムスターの無邪気な様子が写った写真と骨壺。
 その前で手を合わせたり、深呼吸をするだけで、何か生きていく上で大切な間のようなものを持つことができている気がする。
 もうここにこの子はいないけれど、この子の存在を確かに感じる。
 確かに私達はこの子の命と過ごし、最後を看取ったのだ。まるで今も会えるかのように錯覚するほどに、私の日常にこの子は溶け込んでいた。

 可愛いね。

 私はそう思う。
 命の愛おしさを感じる。

 ハムスターの仏壇に、未開封だった個包装のフードを供える娘。
 小さな命の記憶は、この子にもちゃんと引き継がれている。

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