正直村と嘘つき村と旅人
旅人は正直村を探していた。
旅人は心の安寧のために、正直村に移住しようと考えていたからだ。
道を歩いていると、二手に道が分かれており、真ん中に村人らしき人がいる。
道を聞いてみたいものだが、この村人が正直村の住人か嘘つき村の住人かわからない。
正直村の住人は、非常に正直だ。
晴れの日に「今日の天気は?」と聞けば「晴れ」と答えてくれるし、右に正直村があれば「正直村はどっち?」という質問に「右」と答えてくれる。
一方で、嘘つき村の住人は嘘つきで、必ず嘘をつく。
晴れの日に「今日の天気は?」と聞けば「雨」と答えてるし、右に正直村があれば「正直村はどっち?」という質問に「左」と答える。たとえ真実を知っていても、正反対のことを言う要するにあまのじゃくだ。
正直村と嘘つき村。それぞれの住人の性質を旅人は知っている。
そしてこのあたりには正直村と嘘つき村しかなく、分かれ道にいる人は必ずどちらかの村の住人だ。
旅人は少し考えた。
そして分かれ道にいる村人にこう聞いた。
「すみません、村への移住を考えているのですが、あなたの村はどっちですか?」
この質問なら、旅人は正直村に必ず行くことができる。
なぜなら分かれ道に立っている人がもし正直村の住人なら、正直に自分の村を教えてくれる。
一方でもしも嘘つき村の住人なら、自分の村ではない反対の村、つまり正直村を教えてくれる。相手がどちらの村の住人でも、正直村に行くことができる。
分かれ道に立っていた村人は旅人を見て言った。
「こっちですよ。村のみんなは、あなたのような移住者を楽しみにしていますよ」
村人が右を指さしたので、旅人は右に向かった。
ほどなくして村人は正直村に着いた。
村の住人に、旅人は尋ねた。
「分かれ道に立っている人がいたのですが、あの人は正直村の方ですか?」
「いえ、あの人は嘘つき村の住人です」
村人がそう答えたので、旅人は少し不安になった。
分かれ道に立っていた村人は、あまのじゃくな嘘つき村の住人だったのだ。
「あの、正直村の方々は、私が来るのを楽しみにしていたのでしょうか?」旅人は恐る恐る聞いた。
「いえ、あなたに来てほしくないと思っていました」正直村の住人は答えた。
旅人はそれを聞いてひどく傷つく。やはり分かれ道に立っていた嘘つき村の住人は、正反対のことを言っていたのだ。
「なぜ来てほしくないと?」旅人は聞いた。
「他人の裏をかくような人間は、嘘をつく人以上に信頼できないからです」正直村の住人は言った。