【ショートショート】未来から来た僕の僕へのアドバイス

オムニバス(ショートショート)

未来から来た僕

 「つまり君は、未来から来た未来の僕なんだね」僕は言った。
 「その通り」未来の僕は言った。

 事の発端は十分ほど前にさかのぼる。
 大学受験のため僕が勉強をしていると、突然机の引き出しが開いて人が飛び出してきた。
 僕に似たその青年は、自分は未来から来た僕だと言った。
 未来を望ましいものに変えるために、未来から来たのだという。

 はじめは信じがたかったが、机の中が異次元につながっていた点と、僕のことを非常によく知っている点から彼が未来の僕であるということを信じることにした。

 「僕は君の未来を変えるために来たんだ。このままでは君の未来は大変なことになる」未来の僕は言った。
 「君は僕にどうしてほしいの?」僕は単刀直入に聞いた。
 「よく聞いてくれ。明日、天気予報にはなかった大雨が突然降る。風も強くて外の視界はすごく悪い。けれど君は模試を受けるために外に出るんだ。風に飛ばされないように傘の根元を持っているから、君はろくに前も見えないまま歩く。
 駅前に交差点ががあるだろう?君は横断歩道が青信号だからと大して確認もせずに歩くんだ。そして右側から来る、左折した車と衝突してしまう」

 僕はその話を聞いてゾッとした。このままだと、明日僕は死んでしまうのだ。
 もしも未来の僕が来てくれなかったら、大変なことになっていた。

 「わかった。明日の模試は休むことにするよ。家にいることにする」僕は言った。
 「え?逆だよ。明日の君は大雨のために模試を休むんだけれど、そうではなくてぜひ模試を受けに行ってくれ。そしたらさっき話した通り車と衝突するから。大丈夫。左折してくる車だからスピードは出ていないし、かすり傷で済むよ。それでたんまり慰謝料をもらってきてくれ」
 僕はそれを聞いて唖然とした。
 「どういうこと?」僕は聞いた。
 「今の君はまだ知らないだろうけど、僕達の家庭はけっこうカツカツなんだよ。君が大学三年生の頃には授業料の支払いが厳しくなって、大学を中退することになる。そのあとの人生がいかに大変なものかは未来の僕が保証するよ。だからこの交通事故でしっかり大金を手に入れておいてほしいんだ」

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