【会社の上司が嫌すぎて】

オムニバス(エッセイ風小説)

会社の上司が嫌すぎて

名前ってなに? 薔薇の漢字が書けなくても、美しい香りはそのまま

 たとえば「薔薇」の漢字なんて書けなくてもいいし、必要ならネットで調べればいい。

 私もそう思う。
 けれど私の上司は、そういう考え方が嫌いな人だった。

 薔薇を書ける人が偉いし、
 薔薇という漢字を一生懸命覚えようとする人が正しいし、
 薔薇という漢字を覚えろと命令されたら素直に覚えようとする人が好きだし、
 ネットで調べればよくないですか? と言ってくるような人間が嫌いだった。

 もちろんこれは例え話だが、要するに私達の上司はそういう人だった。
 古い価値観、理屈ではない感情論、従順な人を評価する体育会系。

嫌いなものは嫌いなままに、コスモスの花咲く

 最初に薔薇の漢字の例え話をしたのは、先輩の大春さんだった。

 みんなが嫌っている茨部長。
 みんなで茨部長の愚痴を言っているときに、ふと大春さんが言った薔薇の例え話。
 その例え話に乗じて、誰かが言った。
 薔薇の漢字を書けない人を嫌う茨部長、イヤバラ(嫌薔薇)。
 それ以来、私達の間では茨部長はイヤバラとひそかに呼ばれている。

「いや、それじゃあ部長が薔薇嫌いみたいじゃん」
 大春さんは笑いながらそう言ったけれど、一度みんなでおもしろがると、その言葉がしっくりきてしまう。
「ってか茨部長もたぶん薔薇書けないし。例え話したの私だけど、イヤバラまで私が考えたみたいにしないでね」
 大春さんは笑いながらそうも言っていたけれど、結局みんなの中でイヤバラは浸透した。

 冷静に考えれば、別にうまい名付けではなかったけれど、あだ名なんてそんなものだ。

上司居ると思う心の仇桜

 私は私が勤める会社の上司が苦手で、嫌いだ。

 どんなところが嫌いなのか。
 最近はそういうことを考えること自体も嫌になっている。

 できれば上司と関わりたくないし、上司のことは忘れていたい。
 でも、会社で毎日のように顔を合わせる現実。

 またイヤバラがなにか言っているな。
 私は心の中でため息をつく。

 会社辞めようかな。
 そう思うこともあるけれど、別に上司が嫌いなだけで、同僚はいい人達だし、仕事の内容に不満があるわけでもない。
 そういうことって、よくあると思う。
 上司が嫌いってことも、上司さえ居なくなれば仕事自体は悪くないのにってことも。

 だからこれは、会社に居ながら嫌いな上司をどうするかっていう、そういう話なんだと思う。
 

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