良い子はマネしないでね

オムニバス(エッセイ風小説)

良い子は真似しないでね

 良い子は真似しないでね。
 テレビでしばしば行われるこの注意喚起は、テロップであることもあれば登場人物が直接説くこともある。

 良い子は真似しないでね。
 テレビで放送される行為は、特別に許可を取ったり、安全に配慮するため複数名で複数の設備が準備されていたり、専門的な知識を持つ者の監修の下で行われている場合がある。
 あるいは、アニメなどであればそれは実写ではないゆえに可能なフィクションなのだ。

 良い子は真似しないでね。
 では悪い子なら真似してもいいのか。もちろんそんなことはないだろう。
 そういう発想をすれば、大抵の大人は「屁理屈だ」と一蹴するかもしれない。
 結局のところ、良い子も悪い子もそれを真似してはいけないのだ。

 良い子は真似をしないでね。
 ではなぜ良い子と表現するのか。これはもちろん、「君は良い子なんだ」というラベリングを行うためだ。
 人はラベリングを行うことでそのように行動するという心理がある。

 例えば保育園で赤と青のTシャツをランダムに子供達に着せる。そうして日常を送っていると、次第に赤いTシャツを着た子供は赤いTシャツを着た子供に連帯感を覚えるらしい。

 子供に限った話ではない。大人だってラベリングを多用する。
 会社や学校の制服もそれであるし、朝礼で社訓を読ませる古めかしい会社もある意味で社員を「自分はどのような社員であるのか」洗脳する儀式だ。

 もっと日常に目を向ければ、褒めるという行為もそれだろう。
 「君は手際がいいね」上司が部下にそう言えば、部下は嬉しいだろうしその気になる。

 人は幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せなのだというのは心理学的にも理に適った教訓の一つだ。

 良い子は真似しないでね。
 良い子が真似をしないよう注意喚起しているのではない。真似をしないことでその子は良い子という扱いを受ける。もっと言うと、「君は良い子なんだから真似なんてしないよね」ということを暗に言っているのだ。

 君は良い子なんだから真似なんてしないよね。

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