自分だけが損をしているとみんなが思っている時代

オムニバス(エッセイ風小説)

自分だけが損をしているとみんなが思っている時代

 自分だけが損をしている。
 自分だけが割を食っている。
 自分ばかり苦労させられる。
 自分ばかり環境に恵まれない。

 自分だけが損をしていると、みんなそれぞれが思っている。
 それは社会全体が下向きだからかもしれないし、どのような時代もある程度普遍的に人はそう思うのかもしれない。

 誰かだけが損をしているのではなくて、その「誰か」が自分だとみんなが思っている。
 誰もが得をしている「誰か」に憤り、損をしている「自分」を嘆く。

 自分達だけが損をしている。
 自分の世代だけが割を食っている。
 自分の会社、自分の部署、自分の業務だけ風当たりが強い。

 少し自己を拡張して、自分のコミュニティ・自分が属する集団だけが損をしているとみんな感じている。
 自分を取り巻く環境が割を食っていると感じ、絶望する人もいる。

 私達は、どのように生きたらいいのだろう。
 その答えは簡単には出ないだろうが、少なくとも、「みんな『自分だけが』と思っているのかもしれない」という視点は多少の示唆を与えてくれるだろう。

 みんな「自分だけが」あるいは「自分達だけが」と思っているのかもしれない。

 もちろん、実際にどうかはわからない。
 今の時代、自分の世代が恵まれているのか不遇なのか。
 それは何を比較するのかで異なるだろう。
 例えば今の日本は、確かにバブル期のような熱量はない。
 しかし例えば戦争がある地域のような、命と隣り合わせであることもないだろう。

 私達は恵まれているのかもしれないし、恵まれていないのかもしれない。
 それは何を見るかで変わるし、どのように見たところで社会の事実が変わるわけではない。

 だったら、自分がどのように日々を過ごすかが、もっと身近でもっと重要なことかもしれない。

 社会や世界のあるべき姿との乖離で絶望するのではなく、自分が今生きているこの瞬間を、どのように過ごせば幸せを感じられるか。

 それは自分の好きなことをすることかもしれないし、既存の集団から距離を置くことかもしれない。
 逆に自分に合ったコミュニティを見つけることかもしれないし、誰かと共感することかもしれない。

 いずれにせよ、自分が今生きているこの瞬間を、どのように過ごせば(絶望ではなく)幸せを感じられるか。それについて考えるのは、少なくとも自分自身にしかできない自分自身ができることだ。

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