会社が社員の人生に責任を持てなくなった時代

オムニバス(エッセイ風小説)

会社が社員の人生に責任を持てなくなった時代

時代の変化と働くこと

 今の時代は一人の労働で一人分の生活しか賄えないことが多い。
 それが会社と社員の関係性に変化を与えている要因の一つだと思う。

 昔は一人の労働が複数名の生活、つまり家族を養うことができた。
 例えばサラリーマンのお父さんと、専業主婦のお母さん。二人の子供。
 一人の労働で四人の生活が成り立つ。自分が働くことで自分だけでなく家族の生活も成り立つ。
 それはつまり、会社に自分の生活だけでなく、自分の人生も面倒を見てもらっている錯覚に陥る。
 働き結婚して、子供が生まれて家を買って、子供が自立して老後を迎えて。
 そういった生活が自分が働くことで成り立つ。そう思えば、多少のサービス残業も許容できたかもしれない。

一人の働きと一人の稼ぎ

 けれど今の時代は違う。
 多くの場合、給与は上がらない。多少上がったとしても、自分以外の誰かを養えるほどではないかもしれない。
 一人の労働が一人分の稼ぎにしかならない。だからパートナーは働くし、だったら家事は夫婦で分担することになる。だったらお金にならないサービス残業に時間なんて割けない。ここはただ、自分の分の稼ぎを得るだけの場所だから。

会社に期待をしない人達

 そうやって私達は、会社に期待しないし、会社に労働契約以上の何かを求めることがなくなった。

 代わりに働く多くの人が思うことは一つしかない。それはつまり、「私の人生に干渉しないでくれ」ということだ。
 会社はただ労働基準法通りに動いてくれればいい。例えば労働時間外に呼び出さないとか、残業代を出すとか。
 仰々しい飲み会で親睦を深める必要もないし、上司の人生観を聞く必要もない。

それぞれの人生

 世の中の流れで、会社はどこも給与が上がらない。
 会社は以前のように社員の人生の面倒を見ることはできないし、だから社員も会社に思い入れを持つことが難しい。

 結局みんな、自分の人生で精一杯ということなのだ。

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