余命宣告の花嫁
余命はもって一年と宣告されたが、私達は結婚を選んだ。
教会で愛を誓い、残りの時間を二人で過ごしたい。それが二人の願いだった。
悲劇的な運命に酔っているだけだ。
結婚を反対した一部の人間はそう言った。
そうかもしれない。けれど、愛しているから、後悔したくない。
わがままかもしれないけれど。
ウエディングドレスを着たい。愛する人と。
それが願いだった。
余命を聞いて、正直、未だに静かな夜に一人で涙を流すことがある。
死を受け入れることなんて、やっぱりできない。
死なない人間なんていない。私も彼もいつかは死ぬ。
その時期が事前にわかっただけで、なぜ人はこうも動揺してしまうのだろう。
病院で余命を聞いたとき、頭が真っ白になった。
これからだって、彼としたいことや行きたい場所がたくさんある。子供だって欲しかった。
なんでなんでの繰り返し。すり減っていく心。
でもその先に、少しだけ開き直れた自分もいた。
短い時間であっても、やっぱり彼と結婚したい。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」教会で牧師さんは言った。
「はい」彼は言った。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい」私は答える。
私達にとって、 健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも 、たぶんとても短い期間だ。それでも、命ある限り真心を尽くしたい。あなたと居れて幸せだった。最後を迎えるとき、泣くのではなく笑ってそう言えたらいいな。
「誓いのキスを」
牧師さんはそう言った。私達はキスをする。
ああ、やっぱり、死ぬのは嫌だなぁ。
キスをしながら、ふいにそう思った。そう思うと、涙が込み上げた。
彼はそれを察して、少し手早く私のベールを元に戻した。
「どうして君が泣くの?」優しく彼は言った。
私は何も言わない。言葉を出したら、もう涙は嗚咽に変わるから。
余命一年と宣告された私の夫は、自分の死と向き合いながら、それでも優しく私を包み込んでくれている。