雨にも負けず風にも負けず、けれど負けることもあるだろう

オムニバス(ショートショート)

雨にも負けず風にも負けず、けれど負けることもあるだろう

 雨にも負けず、風にも負けず
 雪の日も夏の大雨にも負けず、
 丈夫な身体で休むこともなく、
 欲張らず嫌な顔せずいつでも笑顔で頷いている。

 健康的な食事を摂りながら、酒をたしなみ人と話す。

 あらゆる人の話を聞き、しかし打算はなく、
 最後まで聞き深く頷く。

 小さな家に住み、
 時として異性をすすめられ、
 東に病気の人がいれば代わりに仕事をし、
 西に集会があれば夜に顔を出し、
 南に場所を定められれば席を設け、
 北に三年と言われれば住まいを変える。

 指示があれば動き、
 待機と言われればその場で待ち、
 人から歯車と言われ、
 誰でもできることをやる。
 そういう人に、
 私はなりたいのかな。

 雨にも負けず風にも負けず、
 電車が止まっても出勤して。
 身体を少々壊しても休まず、
 有休は使わずサービス残業に嫌な顔をしない。

 飲み会では酒を飲み、
 上司の話を聞いて頷き、人の悪口に共感する。

 独身でいれば揶揄され、
 恋愛のことに干渉され、
 子供を産むことに口を出される。

 病欠の人がいれば休日出勤をし、
 研修があれば自費で参加し、
 突然の人事にも嫌な顔をせず、
 先の見えない転勤に文句を言わない。

 言われたことをやり、
 慣習に従い、
 指示があるまでじっと座って待っている。
 私にしかできないことはなく、
 私の考えや発想はなく、
 私は上司の下でニコニコし、
 そういう人に、
 私はなりたいのかな。

 そういう人が上司に好かれて、

 権利を守る人、
 自分の気持ちを話し、
 慣習にとらわれず、
 自分で考えて行動する人。

 そういう人が不遇に立たされる。

 それでいいと、
 私は思うのかな。

 雨にも負けることも、
 風にも負けることもあるだろう。
 私は弱い人間だから。

 雨に負けることも
 風に負けることもありながら、

 自分の気持ちを持ち
 世の中の理不尽さも感じ、

 優しくありたいと願い
 私という存在の尊さを感じ
 どういう人に、私はなりたい?

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