浮気をしたのに悲劇のヒロインぶる彼女

オムニバス(ショートショート)

自業自得の悲劇のヒロイン

 どうやら僕の彼女は浮気をしたらしい。
 彼女は泣きながら僕にそのことを教えてくれた。
 浮気をされたのは僕なのに、なぜ彼女が泣いているのか。僕としてはそれも気になるところではあるが。

 いずれにせよ、彼女は浮気をしていたことを僕に打ち明けてくれた。
 ただし僕が彼女の携帯を見て、明らかに親密にやりとりをしている男性の存在を僕が知って、外で二人きりで会っていることも別の友人から聞いていて、その上で彼女を問いただしたことで彼女は話してくれたのだが。

 彼女は僕に「ごめんね」と泣きながら言ってくれる。
 あなたのことが本当に好きだから、だから辛かったと言ってくれた。
 ずっと言えなくて悩んでて、苦しかったと言ってくれた。
 私は最低で、本当に自分が嫌い。こんな私じゃあなたにふさわしくないよねと泣きながら言った。

 僕としては、彼女の「あなたにふさわしくないよね」が暗に別れようということなのか測りかねる。

 こんな私はきっと誰からも愛されないと泣きながら言っている彼女に、僕はどのような声をかけたらいいのだろう。

 僕としては、浮気はもちろん良いことではないが、彼女が望むなら関係を続けてもいいとは思っている。けれど彼女自身がもう僕のことは心になくて、浮気相手に気持ちが向いてしまっているなら、それはどうしようもない。

「僕達はこれからどうしたらいいだろう」僕は言ってみる。
「私もわからない。あなたのことが好きだけれど、私はもうあなたのそばにいちゃいけない気もする」彼女は言う。
「君が僕といることに『ふさわしい』とか『ふさわしくない』とかはないと思うよ。僕はそんな大した人間じゃないしね」
「私を許してくれるの?」
「うーん、難しい質問だけれど、少なくとも君と一緒に居たいとは思えているよ」
「私はどうしたらいいのかな?」
「君が僕と別れようと思うなら、それは仕方がないと思う。けれどもし、もう一度やりなおそうと思ってくれるなら、僕も努力はするよ」

 彼女は「ごめんね、ごめんね」と言いながら僕の胸に顔をうずめる。
 たぶん、僕達は関係をやりなおすということなのだろう。

 彼女はこうして自分の浮気を僕に責められることもなく、自分から別れようともやりなおしたいとも言わず、あくまで僕が浮気を許して関係を続けたいという意思表示をすることになった。
 そして察するに、僕のほうの浮気は彼女にバレていないようだ。
 浮気をして悲劇のヒロインぶる彼女も大概だが、僕も大概だ。

 要するに、僕達は大した人間じゃない。


 

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました