手帳術
青年は非常に忘れっぽい性格だった。
書類の締め切りを忘れたり、持ってくる物を忘れることは日常茶飯事だった。
しかし非常に真面目で素直な性格で、周囲からは好かれていた。
ある日、青年は取引先との予定をダブルブッキングしてしまった。
さすがに見かねた上司は、青年にアドバイスをした。
「人間誰しも忘れることはある。だから工夫が必要だよ。私は予定やすることは逐一手帳に書いている。試しに君も手帳を使ってみてはどうだい?」
青年はそうアドバイスを受けて、手帳を買って何でもそこに書き留めるようにした。
上司のアドバイス通り、スケジュールだけでなくその日に必要な物やちょっとしたメモなどいろんなことを書き留めるようにした。
なんでも手帳に書いているので、それを見返すことで思い出すことができる。青年のうっかりミスは目に見えて減っていった。
ある日、上司と青年は取引先で商談をしていた。
「では来週の水曜日にこのお話の続きをできますか?」取引先は言った。
「わかりました。予定は大丈夫かい?」上司は青年に確認した。
「課長、すみません、手帳を忘れてしまいました」青年は言った。
エピローグ
後日、青年は手帳を忘れない工夫を考えた。
手帳を仕事で使う鞄に常に入れておくことにした。
しかしそれだと、デスクの上で手帳にメモをして、そのまま鞄に入れ忘れることがあった。
鞄とデスク。手帳の移動は避けられない。
青年は考えて、手帳をポケットに常に入れることにした。
肌身離さず手帳を持つことで忘れないし、メモも取りやすい。
しかし青年の手帳はスーツのポケットに入れるには少々大きい。
そこで青年はポケットに入るコンパクトな手帳を買った。
新しい手帳は以前の物より小さくなったが、そこまで支障はなかった。
むしろ持ち運びがしやすくなり、青年には合っていた。
「今度の商談は、たしか十二日の水曜日だったかな?」ある日、上司が青年に聞いた。
「確認します」青年はそう言ってポケットから手帳を取り出した。
青年はしばらくページをめくり、そして困惑した顔で言った。
「課長、すみません。予定は前の手帳に書いていて、家に置いてきてしまいました」