何度も訪れる春という季節の温かさと切なさ

オムニバス(エッセイ風小説)

何度も訪れる春という季節の温かさと切なさ

今年もまた春が来る

 冷たい空気の中にも陽の光の温かさを感じる。もうすぐ春が来る。
 日が少しずつ長くなり、空の青さが少し濃くなり、もうすぐ冬が終わるのだと感じる。

 繰り返していく季節の中で、今年もまた春が来る。

出会いと別れの季節

 春は出会いと別れの季節。
 入学式や卒業式。私達は節目の変化に期待と寂しさを覚えながら、歳を重ねていく。

 誰かと同じ場所に集うこともあれば、別々の道へと旅立つこともある。
 新しい環境に期待と不安もあれば、これまでの場所に郷愁と寂しさを覚えることもある。

 私達は変化していく。
 そのことに、どこか切なさも感じる。
 春の温かさは、人が変化していく無常の感覚を教えてくれる。

 私達は変化してく。
 しかしそれは希望に満ちた、華やかな変化ばかりではない。
 ただ年を重ねること、ただ月日が流れること。それも変化だ。
 春の訪れの中で、去年とさして変わらない自分を感じることもある。
 そのとき、自分も大人になったんだなと感じることもある。

別々の道を進むあなたへ

 あのとき別々の道を進んだあの人。
 あれ以来会っていないあの人。
 みんなどうしているだろう。

 みんな元気だろうか。
 私は元気だろうか。
 たぶん、私は元気でそれなりで、まあ、生きている。
 みんなもそうかもしれない。

 春だね。

 私は心の中でそう思い、実際につぶやく。
 いい天気で、温かくて、やっぱり少し切ない。

なんでもない春の中で

 いろんなことが、あったなぁと思う。
 この春は、なんでもない春だ。
 入学式でも卒業式でも、引っ越すわけでも就職するわけでもない。
 ただの春。

 けれど、季節の移り変わりを感じる。
 比して変化の少ない春を迎えることで、私は年を重ねて人生を重ねていることを感じる。

 今年も春が来て、春が過ぎれば夏が来るだろう。
 季節ごとの記憶、情景を思い浮かべながら、私はこれからをどう生きよう。

 この春が、私にとっていつか思い出す情景となるように、生きることができたなら。

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