誰かと話すにはタイミングがいる

連載小説

本編

孔雀小屋の掃除

「あそこの家の人って、地主さんなんだって」高橋が言った。
「じぬしさん?」僕は聞き返す。
「土地を持ってる人ってこと。お金持ちってこと。お母さんが言ってたんだ。」
「へぇー」
 僕は高橋のくれた情報に頷く。スプリンクラーが自動で水を撒く、広い庭を持つ豪邸。あそこに住んでいる人は高橋いわく「地主さん」らしい。つまりお金持ちということらしい。
 あの家と土地は住んでいる人の物だろうし、あれだけ大きな家を建てているといことはお金持ちだろう。僕は高橋との会話の中で増えたのか増えてないのかわからない情報をもらって頷く。

 僕達は孔雀小屋の掃除をしている。小屋の中にはやはり僕と高橋と孔雀しかいなくて、僕達はくだらない会話をしている。
 この前クラスの席替えがあって、僕と高橋は席が離れ別々の班になった。だから授業中に話すことは減ったが、孔雀小屋の掃除当番では相変わらずこうしてだらだらとしゃべっている。掃除をしながらだらだら話すのは、僕達の恒例になっている気がした。
「そろそろ帰ろう」高橋はそう言って僕を促す。

三角関係

 高橋は最近あの白い家にはあまり寄っていないようだ。まっすぐ自宅に向かうから、僕と帰るルートがほぼ一緒になる。
「ねぇ、私達、三角関係って呼ばれてるらしいよ」高橋が言った。
「そうなんだ。何それ?」僕は知らないふりをする。
 どうも最近、僕と高橋は付き合っているのではないかと思われているらしい。友達にこっそり聞かれて、僕はそれを否定した。一部の女子が僕達のことを三角関係ではないかとはしゃいでいることも、男子の友達から聞いた。つまり僕と、高橋と、あの白い家の住人だ。僕は会ったこともない白い家の住人と、高橋を取り合っているらしい。そういう決めつけは、本当に勘弁してほしい。
「クラスのみんなはね、浅田が私の知り合いと私を取り合っているって思ってるんだって。でもさ、それっておかしくない?こうして一緒に帰ってるし、私達って『対等』じゃない?それを『取り合う』って私や浅田に対して失礼だと思うんだよね」
「まあ、対等だね」高橋の主張は少しずれている気もしたが、ひとまず僕は同意する。「っていうかそもそも、三角関係って決めつけること自体がどうかと思うけど」
「私もそう思う。ほんと周りって人のこと気にするよね。浅田大丈夫?私といると、友達減っちゃうかもよ」高橋は冗談っぽくそう言った。
「なんで高橋といて友達が減るんだよ。別に関係ないよ」
 僕はそのように答えるが、あながち間違いでもなかった。高橋はそこまで露骨ではないがクラスで孤立ぎみで、変わり者扱いされている。そして友達は僕のことを「親切」だと時折言う。友達がいわんとしていることは明らかで、要するに仲良くなりすぎるなということだ。
「浅田は優しいね」高橋が言った。
「そんなんじゃないよ」僕は答える。

章立て

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