高橋と僕と小学校の孔雀小屋

連載小説

本編

高橋の噂

 高橋があの白い家に何度が出入りするようになって、ほどなくして噂が流れた。
 高橋には彼氏がいて、その彼氏の家はあの白い家で、高橋は彼氏に会いに行っているのだ。
 そんな噂が誰からともなく流れた。高橋はその噂を否定したが、その言い方はどこか曖昧で、結局は否定も肯定もしていないような印象を周りに与えた。
 僕にとっては、高橋がなぜあの白い家に出入りするのか、どうでもいいと言えばどうでもよかった。
 本人が言っていないことを噂にするのもいかがなものかとも思った。
 けれど、周囲が高橋のことを噂する気持ちもわからないではなかった。みんなと一緒に帰る中であの白い家に向かう高橋は、どこかこれみよがしなところがあった。みんなと帰っているときに自宅とは違う家に向かえば周囲が気にするだろう。そりゃあみんなどうしたのと聞くだろう。聞かれたら理由を言えばいいし、言えないならごめんねと一言断ればいい。なんなら白い家に出入りする日は一人で帰って周囲の目が向かないようにすればいい。やり方はいくらだってある。
 高橋の行動は、まるで周囲に自分を気にさせて、質問させて、それをはぐらかす自分を楽しんでいるようだった。少なくとも何人かの生徒にはそんなふうに見えた。それは高橋に対する淡い反感となっていった。

高橋と僕

 「言いたくないことは言わなくていいと思う。でも、そういうの気にする人もいるよ」
 孔雀小屋の掃除をしながら、僕は高橋に言った。なぜか僕の小学校では孔雀を飼っている。そして今日は僕と高橋の当番で、孔雀小屋には僕と高橋と孔雀しかいなかった。
 「浅田は優しいね」高橋は言った。
 「そんなんじゃないよ」僕は言った。
 僕は要するに、高橋にもっと上手く立ち回ればいいのにということを言いたかった。不必要に人に嫌われる必要はないし、クラスメイトが高橋の陰口を言って、それを耳にするのもあまりいい気持ちはしなかった。
 「私、めんどくさいね」高橋は言った。
 「そんなことはないと思うけれど」僕は少し嘘をついた。
 「気にかけてくれて、ありがとうね」
 そのあとの言葉がお互い続かず、この話題はまた途中で終わってしまう。
 僕達は孔雀小屋の掃除をする。孔雀は羽も広げず僕達の会話を聞いている。

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自分に変化がないと、他人の変化に人は嫉妬する
本編 小学校の孔雀小屋  僕の小学校では孔雀を飼っている。 正確には、僕が通う小学校ではウサギとメダ...

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