【1分ショートショート】クリスマスがある人々

オムニバス(ショートショート)

クリスマスがある人々

夢がある子供

「サンタさんって本当にいるの?」
 小学生の息子はそう言った。子育てをしている大人の多くが直面する、この話題。ついに私にも来たかと思わずにはいられない。
「どうしたの? 急に」私は聞き返す。
「友達が『世界中の人にプレゼントを配るなんて無理だし、トナカイとそりで空なんて飛べない。サンタなんかいない』って言うんだ」
 そういうませたことを吹聴したがるのは、いつの時代も子供の性というやつだろうか。
「でも実際去年はプレゼントが来てたもんね。あなたはどう思う?」私はまた聞き返す。
「そうだよね! 僕はサンタさんいるって思うんだ! ネットを使えばプレゼントは配れるし、空なんか飛べなくてもウーバーを使えば問題ないもん!」
 夢のある息子は、夢のない解釈をしたようだ。


責任がある大人

 クリスマスと言えど社会人であれば、ゆっくりのんびり家族とクリスマスパーティー、とはいかないことも多いだろう。警察という仕事をしていればなおさらだ。クリスマスの日が仕事なんてことは珍しくない。
 昼も夜もないような仕事だが、もちろんそこに意義を見出してこの仕事に就いた。それに後悔はないが、やはり妻と幼い子供とクリスマスを過ごせないのは寂しいものだ。
 私はパトカーを走らせて現場に着く。こういう日はみんな浮かれてしまって交通事故が多い。十二月の夜中、車から出ると当然ながら寒さがこたえる。
「他の車が通れないので、一旦トナカイとそりを路肩に寄せましょうか」
 プレゼントを配り終えてつい気が緩んでしまったとのことだ。幸いけが人はいないが、トナカイの角と車が軽く衝突し、車の方はヘッドライトが割れている。


予定がある恋人

 クリスマスは毎年家族と過ごしてるから。
 そう言われたのが十二月の初め頃。二人が付き合って初めてのクリスマスに、心を躍らせながら予定を確認したときのことだった。
 人にはそれぞれの価値観がある。だから否定はしない。家族でクリスマスを過ごすのも大切なことだ。しかし「母さんの手料理が美味しいんだよ」という理由にはちょっと引いた。それは彼女に言うことだろうか。
 彼はもしかしてマザコンなのかな。そう考えずにはいられない。普段は一緒にいて楽しいだけに、今後の関係を悩んでしまう。私はため息を漏らしながらランドセルを開けて教科書などを本棚にしまう。明日からせっかく冬休みなのに。

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