ウサギとカメのかけっこ
亀のカメ太がウサギとの勝負を引き受けたとき、周りの亀達はみんなカメ太を止めようとした。
以前から亀の足の遅さを馬鹿にしていたウサギ達。そんなウサギ達に不満が溜まっていた亀達。
見るに見かねたカメ太は、勇敢にもウサギ達に抗議した。
そんなカメ太に対してだったら勝負をしようと言ってきたのはウサギのピョン太だった。
ピョン太はニヤニヤしながら勝負を提案し、周りのウサギ達もクスクス笑っていた。相手を小馬鹿にした、非常に嫌な感じだった。
そんな様子を亀達は不快に感じながらも、何も言えなかった。カメ太を除いては。
「いいよ」カメ太は勝負を受け入れた。
勝負は小さな山のてっぺんにある一本の木まで。早く着いたほうが勝ち。要は長距離走だ。
勝負の前日、亀達はカメ太に考え直すように言った。
「やめておきなさいよ」カメ子は言った。
「俺達のことを思って言ってくれたのは嬉しい。でも敵うわけわけないよ」カメ夫は言った。
「あんな奴らは放っておけばいい。むきになるな」長老のカメ爺も言った。
カメ太は黙ったまま、勝負に向けて心の準備をしていた。
そして勝負の日、カメ太とピョン太は走り出す。
はじめこそピョン太の圧勝だった。しかしそれがピョン太の慢心につながる。
うっかり途中で居眠りをしたピョン太はカメ太に追い越され、最終的に勝負に勝ったのはカメ太だった。
まさかのどんでん返しに歓喜する亀と落胆するウサギ達。今度は亀達がウサギ達を馬鹿にする番だった。
「やめなよ」
カメ太が言った。ウサギ達を馬鹿にする亀達が静まり返る。悔しそうなピョン太とウサギ達にカメ太は言った。
「僕達を馬鹿にするのはもうやめてほしい」カメ太はそれだけ言って帰った。
「カメ太は優しいね。ウサギ達は散々俺達を馬鹿にしたのに」
勝負から数日後、カメ夫は雑談の中でカメ太にそう言った。
「そんなんじゃないよ。ただ、わかってほしかったんだ」カメ太は言った。「相手のことを馬鹿にしたり、どっちが正しいとか勝負で決めたり、そういうのって好きじゃない。僕達はもっとわかり合えると思うんだ。僕はそれを伝えたかった」
「そうなんだ。カメ太はすごいね」カメ夫は言った。
「ほんとね」カメ子も言った。
三匹が満足そうにしていると、広場の方でカタツムリの足の遅さを馬鹿にしているピョン太達の声が聞こえた。
「カメ太、わかったと思うが、馬鹿な奴はずっと馬鹿なままだ。真面目に取り合うだけ時間の無駄になる。お前はお前の好きな友達と、幸せに過ごすために時間を使え」カメ爺は言った。