ショートショートの例とオチ

オムニバス(ショートショート)

ショートショートの例

 小説における「ショートショート」というジャンルに明確な定義はない。
 しかし一般的にはオチのある短い物語を指す。
 例えば以下のようなものだろう。

 黒瀬は悩んだ末に別れ話を打ち明けた。
 成瀬は思わず涙を流すが「うん」と答えた。(自分の手を汚さずに別れることができて成瀬は内心ほっとしていた)

 非常に短いが、この二行の文章もある意味でショートショートと言えるだろう。
 恋人である黒瀬と成瀬。黒瀬は別れ話を打ち明け、それに悲しむ成瀬。しかし心の奥では成瀬が「そう仕向けている」という点がオチとなっている。人の心を描いたブラックジョークとも言えなくない。
 しかしながら、ショートショートの例としてはいささか短すぎるかもしれない。もう少し長いショートショートの例を挙げてみよう。

 黒瀬は悩んだ末に別れ話を打ち明けた。
 成瀬は思わず涙を流すが「うん」と答えた。(自分の手を汚さずに別れることができて成瀬は内心ほっとしていた)
「別れたほうが、お互いのためだと思う」黒瀬は言った。
「しょうがないことだよね」成瀬は涙を拭いながら言った。
 黒瀬は内心ほっとしていた。どうやら恋人に浮気はまだバレていないようだ。

 もう少し長い(それでも短いが)ショートショートである。
 涙を流して演技する成瀬も大概だが、「実は黒瀬のほうが腹黒かった」というオチである。
 ショートショートはブラックジョークやブラックユーモアを取り入れることが比較的多い気がする。人間の腹黒さや皮肉、すれ違いや勘違いをオチにするパターンだ。この場合は「成瀬も嘘をついているが、黒瀬も嘘をついていた」というふうにお互いを騙し合っている。
 ではこのショートショートに、もう少し肉付けを行いたい。

 黒瀬は悩んだ末に別れ話を打ち明けた。
 成瀬は思わず涙を流すが「うん」と答えた。(自分の手を汚さずに別れることができて成瀬は内心ほっとしていた)
「別れたほうが、お互いのためだと思う」黒瀬は言った。
「しょうがないことだよね」成瀬は涙を拭いながら言った。
 黒瀬は内心ほっとしていた。どうやら恋人に浮気はまだバレていないようだ。
 成瀬は内心ほっとしていた。実は成瀬にはすでに親しくしている異性がいて、今の恋人を見限ってそちらに乗り換えたいと思っていた。しかし別れ話を自分からしては、自分がなんとも移ろいやすい人間に見えてしまう。大学での評判も悪くなるだろう。だから相手の方から愛想をつかされて、自身が被害者になりたかった。黒瀬が浅はかな浮気をしていることくらい、成瀬は察していた。

 まだまだ「小説」としては短いかもしれないが、ちょっとした文章量にはなってきたのではないだろうか。ショートショートっぽくなってきたと言えるだろう。
 黒瀬は浮気を隠して別れ話を告げたわけだが、結局すべてを成瀬は知っていて、成瀬の掌で踊っていたにすぎないというオチだ。黒瀬のほうが一枚上手に見えて、実は成瀬のほうが狡猾であったというオチである。
 最後にもう少し文章を付け足してこのショートショートを終わろうと思う。

 黒瀬は悩んだ末に別れ話を打ち明けた。
 成瀬は思わず涙を流すが「うん」と答えた。(自分の手を汚さずに別れることができて成瀬は内心ほっとしていた)
「別れたほうが、お互いのためだと思う」黒瀬は言った。
「しょうがないことだよね」成瀬は涙を拭いながら言った。
 黒瀬は内心ほっとしていた。どうやら恋人に浮気はまだバレていないようだ。
 成瀬は内心ほっとしていた。実は成瀬にはすでに親しくしている異性がいて、今の恋人を見限ってそちらに乗り換えたいと思っていた。しかし別れ話を自分からしては、自分がなんとも移ろいやすい人間に見えてしまう。大学での評判も悪くなるだろう。だから相手の方から愛想をつかされて、自身が被害者になりたかった。黒瀬が浅はかな浮気をしていることくらい、成瀬は察していた。
「ごめんね。私がもっと成瀬のことを考えてあげられたらこんなすれ違いにはならなかったと思う」黒瀬は白々しく言った。
「うんうん。俺の方こそごめん。こんな結果になってしまって。黒瀬のこと、大切にできてなかった」成瀬は言った。

 恋人の別れ話で、涙を流すのは女性であるとは限らない。浮気をするのは男性とは限らないし、自分の手を汚さずに恋愛をしたいのは男女共通のしたたかさと言えるだろう。言動で性別をイメージするのは、先入観というものだ。もしもこの文章を読んで、途中まで黒瀬が男性で成瀬を女性と勘違いしていた人がいるのであれば。

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