北風と太陽
旅人のコートを脱がすことができたら勝ちであるというこの賭けに、北風は絶対的な自信を持っていた。なぜなら北風は自分が一番強い風を起こすことができると信じていたからだ。
北風は旅人に向かって冷たい強い風を吹いた。旅人は今にも吹き飛んでしまいそうな強い風に思わずコートの襟元をぎゅっと握る。
冷たい風が吹き付け旅人は寒がり、コートを脱ぐどころかより一層コートを手放そうとはしなかった。
北風が残念そうにしていると、太陽が次の番だと言わんばかりに前に出た。
太陽はじりじりとした光を旅人に当てる。旅人はみるみる汗をかいていく。
先ほど北風の冷たい風で思わず閉めた首元のボタンをはずす。もう一つ下のボタンもはずす。
そしてついに旅人はコートのボタンを全て外した。
しかし旅人は汗を拭くばかりで結局コートを脱ぐには至らなかった。
北風と太陽が残念そうにしていると、今度は青年が現れた。
「今度は僕の番だね」青年は言った。
青年は旅人の近くまで歩いていき、旅人に声をかけた。
「こんにちは。仕立ての良いコートですね。よかったら少し見せてくれませんか?」
青年がそういうと、旅人は「いいですよ」と言ってコートを脱いで見せてくれた。
北風と太陽は唖然としていた。
結局この賭けに勝ったのは、強い風も強い光も出すことができない青年だった。
「他人に何かをしてほしいなら、素直に頼めばいいんだよ」
青年は言った。
青年と強欲な男
青年は北風と太陽との賭けに勝った。
その様子を強欲な男は見ていた。
強欲な男は青年のところへ行き、自分も賭けをしたいと言った。青年は承諾した。
青年と強欲な男が見渡すと、今度は街に向かう女性が歩いていた。
強欲な男は女性のもとへ行った。
「こんにちは。仕立ての良いコートですね。よかったら少し見せてくれませんか?」強欲な男は言った。
「え、嫌です。急になんですか?」女性は怪しみながら言った。
強欲な男は言葉が続かずその場を去った。
次に青年が女性のもとへ行く。そして青年は女性に声をかけた。
「すみません、失礼ながら、値札が首の後ろに付いたままになっていますが」
女性は慌ててコートを脱いだ。
強欲な男が唖然としていると、青年は言った。
「素直に言えば他人がなんでもしてくれるとは限らないよ」