【ショートショート】トロッコ問題を真剣に考える二人

哲学・思考実験・パラドックス

トロッコ問題が実際に起こったら

 トロッコ問題という哲学というか思考実験の類がある。

 制御不能のトロッコが、猛スピードで線路を走っている。
 自分は線路の分岐器の前に立っていて、レバーを操作しトロッコの進行方向を変えようと思えば変えることができる。
 線路の先には五人の作業員がいて、トロッコの存在に気づいていない。このままでは五人の作業員はトロッコにはねられ命を落とすだろう。
 分岐器を使って線路を切り替えれば、五人の作業員は助かる。しかし切り替えた線路の先には別の一人の作業員がいる。
 自分はレバーを引くべきか否か。

 当然、線路に石を置いて脱線させるとか、作業員に声をかけるとか、そういった設定はない。
あくまでレバーを引くか引かないかの問題だ。レバーを操作すれば確実に一人は死に、そうしなければ五人が死ぬ。
 五人を助けるために一人を犠牲にするか。
 一人を助けるために五人を犠牲にするか。
 個人個人の倫理観や哲学を問う思考実験だ。

 この問題に答えはない。
 五人のために一人の命を犠牲にすべきと言えるわけはない。
 しかし五人が死ぬとわかっていながらそれをしない行為もいかがなものか。
 きっとこれは答えの出ない命に関わる問題だ。

 「お前だったらどうする?」
 仕事の休憩中、鈴木は佐藤に暇つぶしの話題として聞いた。
 「俺だったらレバーは引くね」佐藤は言った。
 「すげぇな。五人のために一人を犠牲にするんだ」鈴木は冗談っぽく鈴木を非難する。
 「そりゃあ難しい問題だけれど、被害を最小限に抑えるのが俺達の務めだよ」佐藤は言った。

 休憩が終わり仕事場に戻ると、上司が言った。
 「さっそくで悪いがトラブルがあったから現場に言ってほしい。すでにここにいた五人は現場に行かせてある。佐藤は線路の分岐器の点検を。鈴木は作業中の五人とは反対側の、分岐する線路の点検作業をしてくれ。トラブルと被害を最小限に抑えるよう尽くしてくれ」
 「え・・・」鈴木は口ごもり、
 「はい」と佐藤は返事をした。
 

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