抜き打ちテストのパラドックス
抜き打ちテストのパラドックスとは?
抜き打ちテストのパラドックスというものがある。ちょっとした思考実験の類だ。
ある日、教師が生徒に「来週抜き打ちテストをする」と宣言する。
この場合、抜き打ちテストは来週の月曜日から金曜日のいつ行われるのだろうか。
抜き打ちテストは文字通り実施日がわかってしまっては成立しない。
このため、金曜日に抜き打ちテストがあることはない。なぜなら、木曜日にテストがなかった時点で実施日は金曜日であると確信するからだ。そうなってしまってはそのテストは「抜き打ち」ではなくなってしまう。
しかしこうなると、木曜日の実施もあり得ない。なぜなら金曜日の実施があり得ないということは、水曜にテストがなかった時点で木曜日の実施が確定してしまうからだ。このように考えると、水曜日も火曜日も月曜日もテストを抜き打ちですることは不可能なのだ。
抜き打ちテストのパラドックスの教訓
抜き打ちテストのパラドックスは、それが抜き打ちテストであるためには宣言した時点でテスト実施が不可能になるという思考実験、矛盾、パラドックスの類だ。
もちろん、これは屁理屈だ。実生活では、別に最後までテストの実施日を隠す必要もないだろう。教師が生徒に抜き打ちテストを行うのは、日頃から学習習慣を身につけてほしいからだ。テスト直前にやっつけ仕事のように科目を暗記するのではなく、日頃から授業の理解を深めておく。そのため、「来週抜き打ちテストを行う」と宣言するのだ。そうすることで生徒は「明日がテストかも」と身構え、勉強を日々積み重ねる。抜き打ちテストというものは、そういった文脈ありきなのだ。
その文脈が反映されたのか、今回の小テストはどの生徒も問題を解くスピードが速い。もう全問解き終わったと思しき生徒もいる。私は関心しながら教室を見渡す。
「田中、テスト中だ。キョロキョロするな」
担任が私に注意をし、私はほとんど手付かずの答案用紙に視線を戻す。先週担任が言った「来週小テストをする」というのは、月曜、つまり週明けに行うということだったのか。それとも本当に抜き打ちテストで日付は決まっておらず、たまたま月曜日の実施になったのか。いずれにせよ、今日はテストがないと賭けた私の楽観ははずれ、解答用紙は一向に埋まる気配がない。