風鈴で感じる季節|ショートショート

オムニバス(ショートショート)

風鈴で感じる季節

 風鈴の音で気温が変わるわけではないけれど、季節の移り変わりを感じる。
 その静かで、どこか寂しい鈴の音は、懐かしさを含む季節の移り変わりを私に感じさせてくれる。

 私の実家には、私が幼い頃に作った風鈴が今も窓際に吊るされている。
 居間のカーテンレールに吊るされた風鈴。私の母親はカーテンレールに洗濯物を干すタイプだ。
 夏の雨の日、洗濯物と風鈴が吊るされたカーテンレールは、風情があるのかないのかどっちなのか。
 生活感に溢れた我が家のライフスタイルに、たぶん風情はなかったのだろう。
 けれど、そういう幼い頃の情景の一つ一つが記憶に残っていて、例えば季節の変わり目とかにそれを思い出す。だったら少なくとも、私の中に我が家なりの味わいとか独特の趣はあったのだろう。

 カーテンレールに吊るされた風鈴は、私が幼い頃(たぶん小学生になる前かなったばかりくらい)に母とショッピングモールで作った物だった。
 その日、ショッピングモールでは夏休みの催しとして子供向けに風鈴作りのブースがあった。
 母は私に「風鈴作ってみる?」と聞き、私は「うん」と答える。幼い子供は、何かを与えてもらえるときは大概よく考えずに「うん」と答える。私もそういう子だった。
 幼い私はそこでガラスを熱して自分の好みの形の風鈴が作れるものだとイメージした。しかし実際は違っていて、ただ既製品の無色透明な風鈴にマーカーで絵を描くだけだった。
 私は思ったよりも簡易な風鈴作りに戸惑いながら、ガラスに絵を描くという初めての体験にちょっとした知的好奇心を感じながら風鈴を作った。私は風鈴の本体と、プラ板でできた短冊に絵を描いたり色を塗る。
 そのとき母がどのようにしていたのか、私は覚えていない。私が覚えていないということは、たぶん母は私をただただ見守ってくれていたのだと思う。

 私が作った、というか色を塗った風鈴は、それから年中我が家のカーテンレールに吊るされることになる。風鈴はただ「夏の涼しさ」を演出するだけで、別に風鈴があるから気温が変わるわけではない。それをぼんやりとしたイメージではなく言語化して認識したのも、この頃だった。

 風が吹いて窓を抜け、風鈴が揺れて音を鳴らす。
 別に風鈴があるから気温が変わるわけではないけれど、その鈴の音は年末に吹く冬の風をいっそう冷たく感じさせる。実家に帰省し大掃除を手伝う私は、まだこれを飾ってるんだと苦笑する。

 風鈴の音で気温が変わるわけではないけれど、季節の移り変わりを感じる。
 その静かで、どこか寂しい鈴の音は、懐かしさを含む季節の移り変わりを私に感じさせてくれる。

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