【ショートショート】オオカミ少年こと羊飼いは狼と村人の間で何を言うか

童話ショートショート

嘘をつく子供

 「狼が来たぞー」少年は村中にそう言った。
 狼が来たというのは村中の一大事だ。このままでは村の羊が食べられてしまう。この村は羊毛をはじめとした羊関連の産業で成り立っている。
 村人達は急いで少年が言っていた方へ武器を持って走っていく。
 しかし狼は一匹も見当たらない。村人達はどうしていいかわからずにいる。
 「やーいやーい、騙された」少年は笑いながらそう言った。
 狼が来たというのは、少年の嘘であり、いたずらだったのだ。

 数日後、また少年が「狼が来た」と触れ回った。
 村人達は少し疑いながらも、本当に狼が来ていたら大変だと思い腰を上げる。
 しかしやっぱり狼は一匹もいない。
 少年はまた笑っていた。
 村人達は少年を叱ったが、反省している様子はない。生来のいたずら好きのようだ。

 また数日後、少年は「狼が来た」と村中に触れ回った。
 三度目の正直と言わんばかりに、村人達は狼が来たという方向へ向かってみる。
 やはり狼は一匹も見当たらない。
 「やーいやーい、引っかかったぁ。二度あることは三度あるんだよー」少年は実に楽しそうである。

 繰り返される嘘に腹を立てる村人達。
 村人達は話し合い、もう少年の言うことを信じないよう口裏を合わせることにした。
 狼が来たと少年が言ってももう信じないようにしよう。誰かが真に受けてしまえば、少年はまたおもしろがって嘘をつく。村人達は嘘つきの少年を信じないようにした。

 この村にとって羊は非常に重要な存在だ。
 だから狼が来たと言われれば、多少疑ったとしても心配でしょうがない。
 けれどそういう心理につけこんで、少年は嘘をついてくる。
 大切なのは相手にしないことだ。狼が来たと少年が言っても、考え過ぎてはいけない。それは嘘なのだから。村人達はそう思った。

 ある日、少年がまた走りながら大きな声を出している。村人達はもう少年を信じるつもりはない。そう心に決めておくと、むしろ少年が哀れにも見えてくるくらいだ。少年がだんだんと近づいてきて、声もはっきり聞こえてくる。

 「大丈夫だよー大丈夫だよー。今は狼なんていないよー。一匹もいないから誰も羊のところに行かなくていいよー」

 少年はそう言って、村人達は大慌てで羊の方へ向かった。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました