転校生が隣の席に (3) コミュニケーションの在り方

連載小説

第2話「珍しさで人と関わりたくない」

第3話「コミュニケーションの在り方」

「図書室で小川さんとなんか話した?」放課後、渡辺は僕に聞く。
「別に、何も話してないよ。これといって話すこともないし」僕は答える。
 同じ図書委員ということで、当番の日に僕と小川さんはカウンターで二人っきりになる。けれど会話があるわけではない。小川さんも僕も本を読んでいて、特に会話の機会はない。教室でもそうだが、小川さんは自分から人に話しかけるようなタイプではないようだった。


☆☆☆


 小川さんは物静かなタイプらしく、昼休みは一人で本を読んだり絵を描いたりしていることが多かった。転校してしばらく経つと、物珍しさで小川さんに話しかける人は減ったが、クラスで孤立することはなかった。移動教室や誰かと関わる必要があるときは、北村さん達と一緒にいることが多かった。(北村さんは外向的で世話焼きなのだ)

 人生に友達が必要なのかどうかはわからないし、それは人によるかもしれない。
 けれど学校では友達がいないと不便だなと僕は度々思う。
 例えば僕は一人で本を読んで時間を過ごすことが苦ではない。けれど例えば授業でグループを作るように言われたりとか、移動教室のときとか、学校では友達がいないと不便というか手持ち無沙汰なときがある。
 もちろん、手持ち無沙汰にならないように友達を作るというわけではない。例えば僕が渡辺とよく話すのは、気が合うからで便利だからじゃない。
 けれど、少なくとも、学校という場所は友達を作らないと不便な場所だなとは思う。
 それは大人になると(例えば働いて経済的に自立すると)違うのだろうか。それとも同じなのだろうか。

 小川さんだって、たぶん一人の時間が苦じゃない人だ。けれど転校生で、終日一人でいたら、それこそ浮いて見えるだろう。北村さんと小川さんはどう見てもタイプが違う。それでも一緒にいるのは、ここが学校だからだ。
 僕達は誰と仲良くなれと命令されているわけじゃない。昼休みにどう過ごすべきか誰と過ごすべきか決まっているわけじゃない。そういう意味で、僕達の人間関係は自由だ。
 でもきっと、与えられる自由は本当の意味での自由じゃない。
 僕は時々、そんなことを思う。


☆☆☆


 今日も図書室で僕と小川さんはカウンターの席に座っている。
 僕達は特に会話もしないまま、お互いが机上を向いて時間を潰す。いつもは本を読んでいる小川さんが、今日は何か絵を描いているようだった。盗み見るわけではなかったが、カウンターは狭く、小川さんの描いている絵が視界に入る。
 それはシャーペンで描かれた孔雀の絵だった。羽を広げつつある、躍動感のある孔雀。見本のない中でこれだけ動きのある絵を描けるのは素直にすごいなと思った。
「小川さん、絵うまいんだね」
 僕は思わずそう言ってしまう。僕が小川さんに話しかけるのは、初めてだった。
 偶然同じ委員会になったという不自由の中で、僕は自分の意思で小川さんに話しかける。






第4話「人間関係という島」

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