第4話「人間関係という島」
「小川さん可愛いじゃん」渡辺はそう言った。
「まあ、どうだろう。というか、それと会話のありなしは関係ないよ」僕は曖昧に答える。
前後の席である僕と渡辺は今日もだらだらと話をする。なぜ小川さんの話になったのか。たぶん図書委員の当番が一緒になったときも、僕は小川さんと大して話していないからだ。
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人間関係の変化は、ささやかだが繊細で大きな問題だ。
特に学校みたいに、毎日顔を合わせる人が決まっていて、何かと共同作業を強いられて、気が合う奴も合わない奴も混在するような空間では。
一人の人間が加わったときに、人間関係はどう変化するのか。
ある人にとっては一生の友達ができるかもしれないし、ある人にとってそれまでの心地良い人間関係が壊れるきっかけになるかもしれない。それはとても興味深く、不安なことでもある。
物静かで何を考えているのか正直よくわからない転校生の小川さんは、初めこそ周囲の注目を浴びた。けれど北村さんと内藤さんと一緒に行動をすることが増えて、クラスの中での立ち位置みたいなものは落ち着いた。
とは言っても、外向的な北村さんと内藤さんがおとなしい小川さんを気に掛けているという感じではあったのだが。
いずれにせよ、小川さんの不思議なオーラはそのままに、一旦はクラスの中に溶け込むことができたようだった。
学校という場所では、僕達は自然にポジションみたいなものが決まっていく。
外向的な奴、内向的な奴、派手な人間にそうでない人間。勉強ができる奴やふざけて賑やかな奴。
みんな自分に気が合う人とグループを作ったり一緒に過ごしたりして、一つの教室の中で小さな人間関係の島がいくつもできる。
僕達はその島を望んで作っているわけなのだが、その小さな島は、本当に自分らしさなのかと聞かれれば、よくわからない。
「今日図書委員の当番?」渡辺は聞く。
「そう」僕は答える。
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図書委員の当番で、今日も僕と小川さんはカウンターに座っている。
僕は本を読み、小川さんは絵を描いている。
当番が初めて一緒になった日とそれは変わらない。ただ、最近は変わったこともある。
小川さんは描いた絵を僕に見せてくれる。僕はそれに素直な感想を言って、場合によっては小川さんはそれに対して微笑んだりした。特に会話はしていないが、やりとりはしているということになるのだろう。
続く(近日公開予定)