伏線だらけの異世界転生(プロローグ)
朝、僕の仕事はある程度決まっている。宿屋を整理整頓し、異常がないか確認し、対応する。それが僕の仕事だ。
宿屋の管理を手伝っている僕は、一階のロビーに降りて簡単な掃除と整頓をする。
この宿屋にはなぜかグランドピアノがあって、僕はピアノをはたきで軽く掃く。これはいわゆるストリートピアノで、客が自由に弾いていいピアノだ。
そのあと僕は、同じくロビーにある小さなカフェスペースを整頓する。このカフェスペースに従業員はおらず、客が自分でコーヒーや紅茶を入れる。いわゆるセルフサービスだ。ゴミを集め、テーブルを拭き、補充作業を行いながら在庫を確認する。中煎りのドリップパック、カフェインレスのコーヒー、紅茶とグリーンティーのティーバッグ、砂糖とポーション。
ロビーの準備が整ったら、僕は宿屋の入り口の鍵を開ける。面した通路にゴミが落ちてないか確認する。この宿屋の近くには酒場があるのだが、柄の悪い客がたまにごみを通路に捨てることがある。まったく困ったものだ。
朝の日課を終え、僕はロビーから客室に続く階段を上る。足取りは重い。なかなか疲れる。僕は思わず体重を預けるように手すりを持つ。一歩一歩、階段を上る。
客室のうち空いている部屋に入り、ベッドに一旦腰を下ろす。肩の荷が下り仕事が一段落した気分だ。
僕は一旦ロビーに降りて、カフェスペースでコーヒーを淹れる。コップは客が使う使い捨ての紙コップではなく、自分のマグカップを使う。コーヒーを持って再び客室に向かう。仕事が終わった僕の足取りは軽い。部屋に入り、椅子に座る。テーブルにコーヒーを置いて、それを飲みながら文庫本を読む。
外は光が差しているが、薄い雲から小雨が降っている。降った雨は屋根に溜まり、溜まった水滴が音を鳴らす。その音で、目が覚めたようだ。
宿屋の前で倒れていた人物。気を失った人を抱えて客室まで運ぶのはなかなか大変だった。けれど仕方ない。異常がないか確認し対応するのが僕の仕事だからだ。
「起きたみたいだね。何があったか覚えてる?」僕は言った。