第7話「誰かのために時間を費やすということ」
みんな口には出さないけれど、手紙のやりとりを行うことがクラスの中で一種のステータスになっていた。
あの子はあの子から手紙をもらっている。
あの子はあの子に手紙を受け取ってもらっている。
そんな子供じみて、けれど感じざるを得ない虚栄心が、手紙のやりとりを流行らせる燃料になっていたのだと思う。
僕が渡辺から手紙をもらうとき、僕が渡辺に手紙を渡すとき、周りがニヤニヤしていることを知らないわけではない。けれど僕は見ないふりをしていた。
☆☆☆
いつものように、図書室のカウンターで僕は本を読み小川さんは書き物をしていた。しばらくして小川さんは僕の肩を軽く叩き、折りたたんだ紙を僕にくれる。
小川さんは僕に手紙を書いてくれていた。
「読んでいい?」
僕がそう聞くと、小川さんは頷いた。迷いはしたが、僕はその場で手紙を開くことが適切である気がした。
いつも絵を見てくれてありがとう。
城山君と同じ委員でよかった。
城山君はどんな本が好き? いつも読んでる本はおもしろい?
私は山之上雪さんの「火曜日の放課後」シリーズが好きなんだ。
手紙の返事をもらえると嬉しいな。
文字は色ペンで装飾され、手紙の余白にはちょっとしたイラストも描かれていた。普段の小川さんからは想像しにくい、女子らしいというかポップな手紙だった。
「ありがとう。えっと、小川さんから手紙もらえるのはちょっと意外だった。嬉しいよ。返事書くよ」
僕がそう言うと小川さんは頷いた。
その日の夜、僕は小川さんに手紙の返事を書く。別に大したことじゃない。手紙のお礼と、質問に対する答えと、こちらからの簡単な質問。
小川さんへ
小川さんから手紙をもらえるは意外だった。ありがとう。
本は特にこだわりはなくて、なんでも読むようにしてるかな。
「火曜日の放課後」は読んだことないけれど聞いたことはあるよ。おもしろそうだよね。
小川さんは絵がすごくうまくて初めて見たときびっくりした。昔から描いてたの?
城山
☆☆☆
次の日、登校中に僕は渡辺と会い、ダラダラと雑談をしながら通学路を歩いていく。
「貸した本読んだ?」渡辺は聞く。
「半分くらいかな」僕は言う。
「おっそ。まだ半分? あんまおもしろくない?」
「そんなことないよ。ってか漫画じゃなくて小説なんだからそんなもんでしょ。『まだ半分』じゃなくて『もう半分』だよ」
僕達はそんな他愛のない話をする。手紙で小川さんに僕が読んでいる本の話を振られたけれど、僕は返事で言及はしなかった。渡辺に紹介された本を、小川さんと話すのはなんだか違う気がしたからだ。
続く(近日公開予定)