【ショートショート】祖父と夢で会えたら

オムニバス(ショートショート)

祖父と夢で会えたら

 私は昔からおじいちゃんっ子だった。

 両親が夜遅くまで働いていたから、私の面倒はおばあちゃんが見てくれていた。
 孫を育てる責任感からか、昔の人だからなのか、おばあちゃんは私に厳しかった。
 別に理不尽な厳しさじゃない。好き嫌いせずに物を食べることだとか、遊ぶ前に宿題を済ませることだとか、夜は早く寝ることだとか、そういうことだ。

 だから私はおばあちゃんのことも大好きだ。
 けれど私は甘やかしてくれるおじいちゃんについ懐いてしまう。

 私は昔からおじいちゃんっ子だったから、去年おじいちゃんが死んだときは悲しかった。
 学校をさぼりがちなは私をおばあちゃんは怒るけれど、おじいちゃんは責めたりせずに私のそばに居てくれた。いや、私がおじいちゃんのそばに居たのかな。

 私が学校に行くふりをして家を出たとき、ふと窓を見るとおじいちゃんがリビングにいることがわかった。おばあちゃんは他の部屋の掃除をしていていない。私は窓からリビングに入っておじいちゃんと会話をする。幽霊なのかなんなのかはわからないけれど、久しぶりにおじいちゃんと話せてとても嬉しかった。
「まだここにいる?」私は聞く。
「ああ、いるよ」おじいちゃんは言う。
「また話せる?」
「ああ、話せるよ」
「じゃあ、学校行ってくるね」
「行くふりじゃなかったのかい?」
「気分が変わったの。やっぱり行ってみる」
「無理して行く必要なんてないんだよ」
「わかってる。今日は行きたいの」
 私はそう言って家を出る。リビングに戻ってきたおばあちゃんは、おじいちゃんに気づいていないみたいだ。

 私は学校に行く。家から学校への道には、緩やかな坂道がある。
 私は走る。走ると気持ちがいい。けれど緩やかな坂道は、帰りが上り坂になることを私は知っている。息が切れたところで私の心も変わっていく。やはり学校に行くことが億劫になる。
 引き返そうとしたところで、ちょうど雲行きは怪しくなり、滝のような雨が降り出す。空は明るいのに、前が見えないくらいの豪雨となる。タオルで頭だけ覆い、私はびしょ濡れになりながら家に戻る。やっぱりおじいちゃんのところに行こうと思う。
 私は走る。学校には行かずに、家に戻る私。泣いているのかはわからない。顔が濡れているのは、雨だからかもしれないからだ。

 もうすぐ家に着く頃に、前にお母さんと弟がいることに気づく。学校に行っていないのがバレてしまう。私は道路を挟んで反対側の歩道を走る。これだけ雨が降っていれば、もしかしたら気づかれずに済むかもしれない。
 お母さんはなにやら弟を窘めている。私が通り過ぎたとき、弟は視線を送る。けれどお母さん見間違いじゃないかと言う。そのことに私は寂しさと、不思議な安堵を覚える。私は走る。弟達にできるだけ早く見えなくなるように。私は走る。濡れた身体と洋服では、すぐに息が切れてしまう。そう思ったところで私は気づく。そうか、私も死んでいるんだ。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました