ショートショート女子(2) 学校に行かない子

オムニバス(ショートショート)

第1話「悩める人の広場」

第2話「学校に行かない子」

 私は仕事中、「星野先生」と呼ばれることも多い。けれど私は先生じゃないから、「星野さんでいいよ」と子供達には言っている。だからミツキちゃんも私のことを「星野さん」と呼ぶ。

 私は仕事中、子供相手でもたまに敬語を使う。敬語でなくても、基本的には丁寧な言葉で話す。相手が子供だからといって、上から目線で接していい時代じゃないと思うから。
 けれど、ミツキちゃんと話すときはもう少し対等で、砕けた言葉で話す。たぶん彼女にはそのほうがいいだろうと思ったから。だからミツキちゃんも私に対して敬語は使わない。

 私はここの職員で、ミツキちゃんはここに通っている子。
 私とミツキちゃんは友達というわけではないが、気は合うのかもしれない。
 不器用で素っ気ない言葉の端々に、私を受け入れてくれている好意のようなものを感じる。

 ここは悩んでいる人が来る場所。でも、悩んでいなくても来れる場所。
 私はミツキちゃんが初めてここに来たとき、そう言った。
 人には、なんとなく来れる場所が必要だと思ったから。なんとなく来た場所が安全で、温かい場所であることが、必要だと思ったから。

「学校には行ってる?」私はミツキちゃんに気楽な口調で言った。
「行ったよ。先月は」ミツキちゃんは言った。
「今月は行ってないのね」
「うん」
「部活、今からでも何か入ってみたら? 気分転換になるかもよ」
「考えとくー」
 私達はまるで他人事のように話す。ミツキちゃんが部活に入らないことは知っているし、別に私もミツキちゃんが部活に入ることを期待してはいない。だからこれは例えば「天気がいいね」とか「月日が経つのは早いね」とか、そういう話と一緒だ。別に中身はない。
 私がミツキちゃんの学校生活についてどう思っているかミツキちゃんはわかっているから、ミツキちゃんも私に身構えたりはしない。

「学校は、まぁ、ぼちぼち、行けたら行くよ」ミツキちゃんは言った。
「無理しなくていいと思うよ」私は言った。
「もちろん。無理なんてしないよ。まぁ、次行くのは、来月かなぁ」
「夏休みだもんね」
「そうそう、夏休みくらい、ゆっくり過ごしたいわ」
 高校一年の夏休みに入ったミツキちゃん。とりあえず、一学期は問題なく学校に行けたようだ。




第3話「字が書けない子」

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