唯我独尊の意味と使い方|ショートショート

オムニバス(ショートショート)

唯我独尊(ゆいがどくそん)とは

 唯我独尊とは、世界でたった一人の存在として自分は尊い、という意味の四字熟語である。
 「天上天下唯我独尊」は同じ意味であり、天上天下唯我独尊を省略した表現で唯我独尊として使われる。

 唯我独尊は日常的には「自分はこの世で最も尊い存在だ」という傲慢さをイメージさせる言葉となっている。しかしながら、元の言葉のニュアンスは異なる。

 唯我独尊は元は釈迦の残した言葉とされており、個人の自己肯定感を促す教訓となっている。
 つまり唯我独尊とは「この世界でたった一人しかいない『自分』という存在は、とても尊いものなんだ」という意味である。
 人は誰しもこの世に生まれた瞬間から、天の上を見ても下を見ても同じ人はいないただ一人の存在だ。何かを成すとか何かを持つことが条件ではなく、ただありのままの存在ですでに尊いのだ。

 安藤は社交性があまりなく青春時代は友人が少なく、あまり自分に自信が持てなかった。しかし勉強はいつも中の上の成績で人より優れていることが多く、目立った非行もなかった。それなりの大学を卒業し大企業に就職した安藤は、一般的な水準から見れば高給取りで、その年収でちやほやされることも増えた。天上天下唯我独尊、とまでは言わないが、不自由のない生活と地位は安藤に少なからず万能感を与えた。けれど時折、自分の周りにいる異性がブランド物のバッグなどを求めてくる度に、彼女らは自分に興味を持ってくれているのか自分の社会的地位に興味を持っているのかわからなくなる(おそらく後者だろうと察しはついている)。
 小学校の頃は昆虫が好きで、放課後はよく公園で虫を触っていた。安藤はふとそんなことを思い出す。そういう自分があまり好きでなくなってきたのはたぶん中学とか高校くらいの頃。人とうまく関わることが苦手だと気づき始めた頃だ。

 人は生まれた瞬間から尊い存在で、子供はそれを知っているかのように万能感に満ちている。しかし大人になっていく中でその尊さを忘れ、いつしか根拠のある自信に基づく傲慢さを持っていく。天上天下唯我独尊。元は存在自体の尊さを説いていた言葉が、傲慢さを表す言葉として伝わるように。

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