無能な上司と「ピーターの法則」

オムニバス(ショートショート)

上司はなぜ無能なのか

ピーターの法則とは

 ピーターの法則とは、「組織において優秀な人が出世していくといずれは無能な管理職になる」という社会学の法則である。

 要するにピーターの法則とは「会社というのはそもそも上司が無能になるような仕組みである」という考え方である。

 自分の会社の上司が無能であったとき、多くの人は「こんな無能な人が自分の上司で、自分が運が悪い」と思うかもしれない。
 しかしある意味で、会社の上司が無能であることはごく自然に発生することなのだ。

ピーターの法則の仕組み

 例えば平社員のA、B、Cがいる。
 このうち最も優秀な人間、例えばAが評価され出世し係長になったとする。
 するとこの状況は「優秀な係長であるAと、無能な平社員BとC」ということになるだろう。

 さらに係長であるA、D、Eがいるとする。
 ここでもAが優秀でAが出世したとする。
 するとこの状況は「優秀な課長Aと、無能な係長D、E」ということになるだろう。
 しかしDとEも、優秀だから係長になったわけだ。

 このように、優秀であれば出世しそうでなければ出世しないというごく当たり前の評価を適用し続けると、全ての社員はいずれこれ以上出世できない地位にとどまる。

ピーターの法則の対策

 ピーターの法則を回避する対策は、能力の報酬を「出世」ではなく「給与」などに反映させることだ。そして出世は管理能力の有無で判断をしていくことだ。

 営業ができるからといって部下の管理ができるわけではない。
 しかし営業成績が良い者が評価され、優秀とされ、出世する。
 当然だが、部下の管理が上手い人が管理職になるべきだ。そして営業成績がいい人を無理に管理職にするのではなく、給与をアップするといった形でその優秀さを評価すべきだ。

 ピーターの法則を回避するには、個々の能力に応じた配置をすることなのだ。

ピーターの法則の例

 うちの会社の上司はなんでこうも無能なんだ。
 鈴木は常々そう思っていた。古い価値観を強要し、柔軟性というものがない。

 鈴木は自分の会社の現状に苛立ちを持っていた。
 だからこそ、そんな状況を改善しようと鈴木はひたむきに仕事をした。
 鈴木の仕事ぶりは評価され、同期の中で一番に係長に出世した。

 出世すれば会社をもっと変えていけるのではないか。
 鈴木はそう思ったが、中間管理職の権限は決して大きくはなかった。
 鈴木は部下と上司の板挟みにあいながらも、誠実に仕事をした。
 「俺が課長になったら、あんな無能な真似はしないよ」
 鈴木は部下との飲み会で時々そうつぶやいた。

 鈴木は残業もいとわず真剣に仕事をして、他の係長より早く課長に出世した。
 それまでと比べれば仕事内容も変わり、戸惑うことも増えた。しかし鈴木は懸命に仕事をした。
 ミスをしたときに部下が支えてくれるのは、鈴木がこれまでに得た信頼からだろう。

 ある日、鈴木は直属の上司である佐藤部長に呼び出された。
 「君が真剣に仕事をしていることは私も知っている。しかしもう少し効率も考えたほうがいいかもしれないよ。小耳にはさんだが、君が毎日残業をしているからか、部下達が帰りにくい雰囲気になっているそうだ。この前も時間外にミスを修正してもらったんだってね?」
 どうやら自分が避難していた上司に、自分もなっていたようだ。
 
 

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