第15話「聞き手が多い晴天」
私は元の世界の記憶がない。ミナトの話だけ聞くと、私も元の世界で死んでしまったからここにいるのかもしれない。そのことを以前ツキやフウちゃんに相談したとき、それはわからないと言われた。二人とも、異世界の人がどういう条件でこの世界に来るのかは知らないとのことだった。
「わかった」
大男はそう言った。でもそれは互いが理解し合えた「わかった」ではなくて、自分に選択の余地はないんだという意味の「わかった」だったと思う。
「ありがとう、助かるよ。ヒカリ、あとは任せるよ」
ツキはそう言って私に主導権を渡す。私としては、この人を恐怖で縛るようなやり方は本意じゃなかった。でも、この流れで私が何か別のことを提案できる雰囲気ではない。そういう意味では、私もこの大男と同じで選択肢はないのだと思う。
「えっと、あなたはどうやってこの世界に来たの? 元の世界では、どんな生活をしてたの? 私は元の世界の記憶がないの。だから、あなたみたいにこの世界に来た人達の話を聞きたいの」私は聞く。
「俺はお前のことなんか知らねぇ。だからお前の記憶に関係あることなんて何も知らねぇぞ?」大男は言う。
「でも何か手掛かりになるかもしれない。私、自分がこの世界に来る直前のことも覚えてないの。ねぇ、あなたはどうやってこの世界に来たの?」
「ビルから落ちたんだよ。俺は鳶職で、ビルの塗装作業をやってたんだ。そんとき事故で高所から落ちちまって、気が付いたらこの世界に居た。その瞬間は、そうだな、目の前が真っ白だった。その日はめちゃくちゃ天気が良かったんだ。今日みたいに雨がぱらつく曇り空じゃなくてよ、雲一つない真っ青な晴れだった。単に太陽の光なのか、地面に頭ぶつけて視界がおかしくなったからなのかわからねぇけど、とにかく視界が真っ白になって、眩しい光に包まれた感覚だった。次に気づいたときはこっちの世界だった。地面に大の字で倒れてた。その後は、たぶんお前らと同じだよ。この世界の案内役にいろいろ教えてもらって、今は仲間と一緒に行動している」
ミナトもツキも、黙って大男の話を聞いてる。
「元の世界で…… あなたは死んじゃったの?」私は聞く。
「そりゃそうだろうな。落ちて助かる高さじゃなかったからな。まぁ、こっちで生きってから儲けもんだ」
大男は自然に話していて、嘘を言っているようには見えない。
やっぱり、この世界に来る人は、元の世界で死んでしまった人。だったら私も、記憶はないけれど、元の世界ですでに死んでしまった存在なのだろうか。
続く(近日公開予定)