第13話「決闘が多い雨天③」
「お前、またふざけやがって」
袱閃を見破られ魔法が弱まった怒りと苛立ちの矛先は、やっぱり私に向いてしまう。どうしてこの人はこんなに単純な伏線しか作らないのだろう。
「おい、まだ俺と戦ってたんじゃないのか」
ミナトはそう言って大男に左拳を入れる。大男は勢いよく飛び、岩にぶつかる。
「仲間に袱閃を解読させて、卑怯な奴め」
大男は喋ることはできるが、もう立ち上がることはできない。勝負はついたようだ。
「あのなぁ、一方的に絡んできたのはお前だろう。こっちは別に真剣勝負やろうなんて一言も言ってねぇぞ。俺達は俺達の修業で忙しいんだ」
ミナトは呆れたようにそう言う。そして大男の前に近づいていく。
「お前、どうせ回復したらまた俺達を狙うんだろ? 俺達も暇じゃないんだ」
ミナトはそう言って拳を構える。
「え、何するの?」
私は恐る恐るミナトに聞く。もしかして、殺しちゃうの?
「あのさぁ、確かにこの人乱暴だけど、一応私も無事だし、いや、戦ったミナトは大変だったかもしれないけど、動けない相手を殴るのはどうなのかなぁ。異世界であっても人殺しはさすがになんていうか」
私はできるだけミナトが気を悪くしないよう配慮しながら自分の気持ちを伝える。
「はぁ? 何言ってんだよ。殺すわけねぇだろう」
ミナトはまた呆れたように言う。
「え?」
「ああ、ヒカリは知らないのか。いいか、俺は今からこいつに魔力を打ち込む。魔力を打ち込むと相手の魔力は消耗する。たぶん、俺ならこいつが魔法を数か月使えないくらい魔力を消耗させられる。まぁ、確かに魔力を打ち込むときには殴るわけだが、別に死んだりめちゃくちゃ重たい怪我とかにはなんねぇよ。魔力消耗して気絶くらいはするかもしれないがな」
「ああ、そうなんだ」
私は納得し、焦った自分が少し恥ずかしい。
「ってことだ。自分で絡んで負けたんだから文句は言わせねぇぞ。気絶した後は町に運んでやるからそれだけでもありがたく思えよ。他の魔法使いだったら殺されてもおかしくねぇんだからな」
ミナトは大男にそう言って拳に力を込める。そのとき、私は思う。
「待って」私は言う。
「なんだよ? 可哀想とか言うのか?」ミナトはまた呆れる。
「そうじゃなくて、気絶しちゃうならちょっと待って」
私はミナトにそう言って、大男の前に言って話しかける。
「あなた、異世界から来た人なんだよね? じゃあ、教えてほしいの。元の世界でどういう生活してて、なんでこの世界に来たのか」
私は大男にそう言った。記憶がない私は、記憶を持ったままこの世界に来た人の話を聞いてみたかった。