伏線だらけの異世界転生(6) 質問の多い喫茶店

オムニバス(ショートショート)

第5話「コーヒーの席」

第6話「質問の多い喫茶店」

 運ばれてきたカフェラテとスティックシュガー。私とミナトは好みが合うのかもしれない。あるいは二人とも、苦みだけではコーヒーが飲めない子供なのかもしれない。

「じゃあ、記憶がまったくないってわけでもないんだな」
 カフェラテに砂糖を入れながらミナトは言う。記憶がない私は、記憶を持ったままこの世界に来た人の話を聞いてみたかった。
「うん、なんとなくっていうか、部分的にっていうか。ねぇ、ミナトはどうやってこの世界に来たの?」
 私はミナトに聞いてみた。隣に座っていたフウちゃんは、コーヒーを一口飲んだ後、自分でスティックシュガーを取りに行った。苦かったのかな。
「うーん、俺も別に全部を覚えてるわけじゃないんだ。朝、高校に行くとき遅刻しそうでさ、急いでたら交差点で車にぶつかりそうになった。俺が覚えてるのはそこまで。次に気がついたときはもうこっちの世界にいた。だから俺はあのとき死んで、こっちの世界で転生したんだなって勝手に思ってる
 軽い口調でミナトはそう言ったが、それってけっこう重い話なんじゃないかと思った。だって自分が死んだって認めることだから。ミナトが本当に軽く受け止めているのか、それとも時間が経つ中で心の整理ができたのか、私には計り兼ねた。
「そうなんだね」
 気の利いた言葉が浮かばず私は平凡な相槌を打つ。席に戻ってきたフウちゃんは、コーヒーに砂糖を入れて飲んでいた。
「ねぇ、元の世界で私みたいな人って見たことある? 例えば同じ高校とかで」
 自分でも安易な質問だなと思ったけれど、話題を変えたくて私は言った。ミナトの生死に触れる話題は、聞きづらかったから。
「いや、ねぇな。ってかもしそうなら偶然すぎね? それとも高校の記憶がちょっとあんの?」
「いや、ないけど」
「なんだよそれ」ミナトは笑った。
 私はもう少しミナトに元の世界のことを聞きたかったけれど、なんだか聞けなかった。
 元の世界ではどんな生活をしていたの?
 どういう場所に住んでたの?
 家族は? 友達は?
 元の世界に帰りたい?
 どれも残酷な質問な気がした。だって、ミナトが本当に元の世界で死んで転生してきたのだとしたら、戻りたくても、元の世界にはきっと戻れない。

「三人とも、チョコレートがあるんだけれど食べる?」私達のテーブルに戻ってきたツキはそう言った。
「いるいる」ミナトは言った。
「あ、私も」私は言った。
「じゃあ、持ってくるよ」ツキは言った。
「あんた達、ちょっとは手伝いなさいよ。ツキに全部運ばせて」フウちゃんは言った。
 宿屋のカフェスペースのソファは心地良い。私とミナトは、ついつい上げ膳据え膳になっている。


第7話「修業で多い共通点」

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