第14話「恐怖心の多い観点」
満身創痍の大男。余力があるミナト。この状態で私が何かを提案するのは強迫みたいで本意じゃない。けれど仕方がない。私は腰をかがめ、大男に話しかける。
「あなたの話を聞きたいの。元の世界でどういう生活をしていて、どうやってこの世界に来たのか」
私は大男に聞く。私は元の世界の記憶がなくて、ミナトは元の世界で死んだかもしれないから話を聞きづらい。この人の話を聞くことは、私にとって記憶の手掛かりになるかもしれない。
「まぁ、確かに話聞くくらいはいいかもな」ミナトは納得する。
「お前らに話すことなんてなにもねぇよ」大男はふてくされたように言う。
「お前なぁ、往生際悪いぞ」ミナトは呆れる。
「確かに彼の話を聞くのはいいかもしれないね」
ツキはそう言って大男に近づく。これまで私とミナトのやりとりを見守っていたツキだが、大男が態度を変えないとみたのか、会話に加わる。
「ミナト、彼が元の世界のことを話してくれるなら、ひとまず今日は見逃すのはどうかな? ヒカリの記憶が戻る手がかりになるかもしれない。君も、今日のところは自分のことを話して退散したほうが得じゃないかな?」
「まぁ、確かにそうだな」ミナトは同意する。
「ごちゃごちゃうるせぇよ。さっさと魔力をぶち込めばいいだろ。お前らにわざわざ話すことなんてなにもねぇんだよ」
大男はそれでも拒否する。こうなると理屈ではなく意地だなと私は思う。
「何か勘違いしてないかな?」
ツキは大男に視線の高さを合わせてから、ゆっくりと言う。
「確かに君を殺さず魔力の消耗だけにとどめると、ミナトは言ったしヒカリも同意している。でも僕は何も言っていない。ちなみに僕は君達の世界の住人じゃない。君達の世界の倫理観なんて知らない。君は仲間がいるとさっき言っていたね? 君がいつまでたっても戻ってこなければ、仲間は君を探すだろう。そうなれば君の仲間が誰なのかなんてすぐにわかるよ? いいかい、君の仲間は僕達にとって、“僕達を襲った人間の仲間”なんだ」
ツキはいつも通り穏やかな口調で、けれどどこか冷たく言い放つ。要するにそれって、この人もこの人の仲間もツキが殺すってことだよね? 私はツキを、初めて怖いと思った。
しばらくの沈黙が流れる。大男から目を逸らさないツキ。大男も目を逸らさないが、それは逸らさないというより逸らせない感じだった。目を逸らした瞬間、殺されるかもしれない。そういう緊張感があった。
「…… 喋れば、仲間を殺さないか?」大男はツキに聞く。
「喋らなかったら殺すなんて、そんなこと僕は一言も言ってないよ? 僕が言いたいのは、君がヒカリの質問に答えてくれれば、今日までのことはお互い水に流そうということだよ」
ツキは優しく言うが、それは大男の緊張を解くような言葉ではなかった。むしろ大男を突き放す言葉だ。大男の顔はこわばっていた。私が思った以上に、強迫のようになってしまって、私自身も戸惑っている。